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ASICRO FOCUS file no.229

リー・キット「僕らはもっと繊細だった。」

 9月から原美術館(東京・品川)で開催されている香港のアーティスト、リー・キットの個展「僕らはもっと繊細だった。」(9/16-12/24)の作品群を、来日したリー・キット氏の解説付でご紹介します。午前の開館から夕方の閉館時間まで、季節や天気、時間の経過の中で変化する空気や光と共に様相を変えるリー・キットならではのマジカルな世界が堪能できます。

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1F:Room1

まず目に入るのは、正面にある四角い窓(写真左側)。コンポジションとしてとても好きです。この部屋はなるべくがらんとしておきたい、雑念を追わないようにしました。でも、上の階の展示を見て、またこの部屋に戻って来た時は、ああ、がらんとしているなあとは感じないのではないでしょうか。

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(右手にある小部屋に入ると)この絵は台北で仕上げて持ってきました。プロジェクタからの光は建築と呼応しています。最初は真正面から光を当てたけど、いかにもアート作品の展示という感じで面白くなかった。そこで、プロジェクタを足で蹴って少しずつ動かしていきました。そうしたら、こういう角度になって、これはいいなあとしっくりきました。

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作品に近づいて見ようとすると、自分の影に邪魔されます。近寄って見ようとすると、逆に見えなくなる。そして、一番最初に見えるのは自分の影なんです。ディテールを見ようとすると近寄る。でも、一歩下がって遠くから見ることによって、より見えてくるという仕掛けになっています。(下は同じ小部屋の手前にある、もう1つの作品)

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(最初の部屋の左手上、隣の部屋との壁の上に設置されている)このスクリーンは作品ではなくてデコレーションですが、四角くて半透明で光を透過します。プロジェクションの光をソフトにしてくれる効果があります。窓にあるロールスクリーンも、外の風景をやんわりとぼかして見せてくれる、そういうタッチを醸し出す効果があります。

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1F:Room2

この部屋はとても手を加えました。壁を作って部屋を仕切りました。奥の部屋は窓を遮ってあります。自然でありたい、何も手を加えたくないという気持ちがある反面、何もしないというのも傲慢。だから、少しだけ手を加えて、謙虚であることと傲慢であることを問うています。

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プロジェクターの光が当たっているここでは、撮影したビデオを流しています。四角の中に四角があるというものになっています。

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この絵は、2013年に展示を終えて長旅から帰った後ですぐに描きました。展示するつもりはなかったのですが、何気なくスーツケースに入れて持ってきていました。そこで、まずこの絵をかけて、そこからちょっとインスピレーションを働かせようと思ったところ、なんとなくしっくりきたので、ここを出発点に展開していきました。

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ライトニングに関しては、例えばこの私のお気に入りの作品に光を当てたいけれども、スポットライトは嫌いなんですね。それで、プロジェクターを使うのですが、この絵になんとか光を当てたい。そこで、このプラスチックケースを使ってみました。ここに光を投影させ、観客の皆さんの背後に反射させて、この絵に光が照らされるという手法にたどり着いたわけです。(この複雑でマジカルな仕組みはぜひ会場で味わって欲しいです)

2F:Room1

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この部屋にはアジア人の幼い少女(リー・キットさんのGFの幼い頃)が微笑んでいる写真があり、「ハロー」と書いてあります。ここにちょっとしたかわいらしさを入れました。私なりに、ちょっと甘みを加えました。苦いコーヒーに砂糖を入れると、逆に苦みが際立つ、そういう効果を狙っています。(背面から風が出ており、写真手前の透明な揺れる紙を透かして見る趣向)

2F:Room2

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2F:Room3

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最後の部屋です。観客はクライマックスを期待するので、あえて期待を裏切るようにしました。この部屋で重要なのは音です。ある意味、音の展示といえるかもしれません。扇風機の音、プロジェクタの音、この部屋には音が存在します。原美術館は天井が低いので、ある意味では展示に向かないかもしれませんが、この音の反響という意味では面白い音響効果が狙えます。音というのは人工的に加えなくても、自分の頭の中で音楽や音が流れていますよね。何かを鑑賞しながら、自分の中に流れてくる音、それも重要な要素だと思います。

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私たちはあえて口にしない、語りたくても語れない感情がある。大好きな家族がいて、生活もうまくいっている。だけど、なにか口にできない。それがある時、川辺にいたり、犬の吠える声を聞いて、あ、自分の思いを語っている、うまく表現していると感じる瞬間があります。そんな私が感じるリアルな瞬間、それをこの部屋では再現してみたかったのです。

リー・キット

記者会見時のリー・キット氏(通訳は映画祭でお馴染みの松下由美さん)

この展示では、窓、光の取り入れ方がはとても重要です。皆さんが訪れた時間の天候だったり、ブラインドスクロールの下し加減だったり、時間帯などに左右されるわけです。あるがままに身を任せ、この場を生かして楽しむ。私自身もそういう気持ちでいます。

 開催は24日までですが、原美術館でこの展示が見られる貴重な機会は今だけ。近隣の方、お時間の許す方はぜひ足を運んでください。 (駆け足のご紹介ですので、後で補足します)


更新日:2018.12.23
back numbers
リー・キット
「僕らはもっと繊細だった。」
Lee Kit
‘We used to be more sensitive.’

期間:9/16-12/24
場所:原美術館
時間:11:00-17:00
*入館は閉館時刻の30分前まで
料金:
一般  1100円
大高生  700円
小中生  500円
*原美術館メンバー無料
artist profile
リー・キット
李傑/Lee Kit


1978年香港生まれ。2008年香港中文大学美術学部修士課程修了。現在は台北を拠点に、アジア、アメリカ、ヨーロッパ各地で滞在制作を行い、美術館、ギャラリー、アートスペース等での発表を続けている。

2013年、ヴェネチアビエンナーレの香港代表。2016年にはウォーカー・アート・センター(アメリカ、ミネアポリス)とS.M.A.K.(ベルギー、ゲント)において個展を同時開催。2017年にはパレ・ド・トーキョー(フランス、パリ)の「Sous le regard de machines pleines d’amour et degrace」展に参加。日本では、2010年よりシュウゴアーツにて3度の個展の他、2015年に資生堂ギャラリーにて「The Voice Behind Me」展を開催。広島市現代美術館のグループ展「被爆70周年 ヒロシマを見つめる三部作/ふぞろいなハーモニー」(2015年)に参加。
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