もうひとつの視点からたのしむ
『最后的愛,最初的愛』
−楊世奇
日本では昨年12月に公開された中日合作映画『最后的愛,最初的愛』(邦題『最後の恋,初めての恋』)。上海では情人節(バレンタインデー)にあわせて2月14日に公開されました。渡部篤郎さん、徐静蕾さん、董潔さん、石橋凌さんらが出演の、せつなくしかし前向きな恋の物語。このお話自体は私が多くを語る必要もなく、観ていただければすべてがおわかりいただけます。
そこで今回は、渡部篤郎さん扮する青年・早瀬が所属する自動車会社の副社長・陳を演じた楊世奇さんにスポットをあててみました。
そもそも俳優業が本業ではない楊さん。彼が映画に出演するきっかけは、そのはるか昔、日本留学時代にさかのぼります。当時、お寿司屋さんでアルバイトをしていた楊さんは、お店の常連であった「オフィスまとば」の的場社長と知り合います。その後、的場社長の事務所の所属俳優である渡部篤郎さんが、NHK大河ドラマのロケで中国へみえた際に通訳を務めることになります。
ところが、ようやく台詞を覚えるコツもつかんでよい感じになったところで、役の変更が決まります。実は彼が最初に演じることになっていたのは、京劇スター呉汝俊(ウー・ルーチン)が演じた李社長という役。この役の台詞を2週間かけて覚えた楊さんに与えられた課題は、その半分の1週間で陳の台詞を自分のものにすることでした。
いよいよ撮影開始。楊さんが心に決めていたのは「台詞をきちんと覚えること」。そして「緊張しないこと」。初めて経験することばかりの環境で、好奇心旺盛で前向きな楊さんはすっかりその場を楽しみ、ほとんどミスもなく撮影を終えることができました。その中でも早々に出て来る、豫園での食事の席に遅れてやってきてキュウリをかじるシーンはアドリブで、当摩監督にずいぶん感心されたとか。(ちなみにこのキュウリ、テストを含めて4本召し上がったとのこと。)
しかし、俳優の面白さを知ると共にその難しさも知ることになります。どんな仕事も周囲の人との協調で成り立っているわけですが、特に映画の撮影中は、その中の誰か一人がミスをするだけで、それが些細なものであってもすべてをやり直すことになります。その緊張感を心地よいと感じる時もあれば、プレッシャーと感じる時もあり。いつも違う仕事をしていて新鮮でおもしろいと思う反面、一つのシーンを何度撮りなおしても、そのすべてが同じく一番良いものでなければならないとても大変な仕事でもある、と痛感したそうです。
そしていよいよ上海でも公開となりました。毎日毎日キッチンからもれ聞こえる台詞を耳にしていた奥様は、実際はどのようなシーンになっているのだろうか?と大急ぎで劇場にかけつけたとか。お子さんのお友達の間でも話題になったり、出演したことを知らなかった友人からは「映画を観たよ」と驚きのショートメールが舞い込んだり。身辺がにわかに慌ただしくったようです。
これからも今回の経験を活かして、中日のかけはしとして活躍されることを願います。
(取材日:2004年2月25日/上海マイシティ編集部にて)
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