シンガポール独自の文化を
日本の皆さんに知って欲しい
−ロイストン・タン(監督)
8月9日より渋谷ユーロスペース(全国順次公開予定)で公開されている、シンガポールの異色作品『881 歌え!パパイヤ』。この作品を監督したのは新進気鋭のロイストン・タン。長編デビュー作の『15』、NHKの資金援助を得て製作された『4:30』など、これまでは数字をタイトルにしたアート系の作品を手がけてきましたが、『881 歌え!パパイヤ』はゲータイという庶民の伝統芸能を舞台に、誰にでもわかるような娯楽作品に仕上がっています。
本作の大ヒットにより、一躍メジャー監督の仲間入りをしたロイストン・タン監督に、お話を伺いました。
(記者、アジクロ、監督)
●『881』について
これまでの作品に比べて、本作は誰もが楽しめるエンターテインメントになっていますね?
タン「たしかに今までの僕の作品には重たい、しんどい、というイメージがありましたが、今回はもっと観客に近いものにしようと思いました。それで、親しみやすい映画になっているのでしょう。それに僕の母が、今までの作品を観てわからないと言っていたので、せめて、母にもわかる作品を撮りたいと思ったんです(笑)」
笑いの中に病気や死も扱っていて、不思議な味わいの物語ですが、どういうジャンルとして作られたのですか?
タン「まず笑いがあり、笑いの中に涙があり、また涙の中に笑いがあり…と、そういうのは他の映画にもあるのですが、この映画が今までと違うところは、その笑いと涙の両方の情感が混じり合ってなにかを織り出そうとするところ。そういう映画にしました」
CGを使っている場面もありましたが、それを使ったことによってさらに不思議な感覚がありました。
タン「こういう部分は特に、監督の個人的な視点で描いています。自分でゲータイを観に行くと、歌合戦なので、頭の中でこうなったら面白いなあ…と、別なことを考えています。そういう視点やアイデアを、実際に映画化してみたわけです」
●出演者について
主演にミンディ・オンさんとヤオ・ヤンヤンさんを起用した理由は?
タン「実はこの映画を撮るかなり前に、彼女たちと舞台で一緒に仕事をしたことがありました。その時は舞台のマルチメディアの担当をしていたのですが、彼女たちとはとても気が合い、いつか彼女たちをシスターズみたいにして映画に出したら面白いだろうなあと、ずーっと考えていたんです。そこから出発して、パパイヤ・シスターズが誕生しました」
最初に2人がいたんですね?
タン「そうです。実はこの映画が生まれたきっかけは、彼女たちと3人でカフェでいろんな雑談をしていたのが発展したものなのです」
リンおばさん役のリウ・リンリンさんは実際にゲータイで活躍されているそうですが、なにかアドバイスはもらいましたか?
タン「彼女はゲータイの世界ではすごい大物で姐ごみたいな方なんですが、撮影現場ではとても内向的でした。でも大変なプロなので、彼女にはいろんなことを聞きました。歌い方や話し方、見せ方など、いろんなゲータイのルールに合っているかどうか、いろいろと専門的なことを聞きました。撮影現場ではまさに、僕の参謀長官みたいな役割を担ってくれました」
今でも彼女の声が聞こえてくるようです。
タン「彼女の声はとても通るんですよ。賑やかな会場で彼女が登場して歌い出すと、さーっと静かになって聴いてくれる。そのくらい凄い人です」
●福健語について
この映画では言葉も話題になったそうですね?
タン「シンガポールの法律はクォーター制になっていて、映画の中で使う方言の比率が決められています。この映画はほとんどが方言(福健語)ばかりなので、検閲が討議を重ねた上で通過しました。それで話題になったんです」
福健語がとても独特でしたが、シンガポールでは福健語の方が多いんですか?
タン「一般的には福健語が多いです」
『881』を福健語で発音するとどうなるんですか?
タン「プイ・プイ・ユー」
プイ・プイ・ユーとは! 「パパイヤ」の発音に似ているというので、広東語の「パッパッヤッ」に似ているのでは?と予想していたのですが、まるで違っていてびっくり。共に南方の方言ですが、イントネーションなども違うそうです。
●ゲータイ歌手とは?
Q:シンガポールの人々にとって、ゲータイ歌手というのはどういう存在なのですか?
タン「基本的に、CDは出さないしテレビ出演もしません。ゲータイという限られた市場の舞台で歌います。また、ゲータイでショーのできる歌手はそう多くありません。いろんな訓練や試練を受けるので、アイドル歌手などに比べると苦労が多いのです。また、アイドル歌手よりもかなりプロです。この歌を歌えと言われると、すぐに歌わなくてはならない。そのくらい専門性が高い歌手です」
Q:テレビに出ている歌手とゲータイの歌手との人気度の違いは?
タン「もちろん、知名度とうい尺度で見ればテレビに出る歌手の方が人気がありますが、ゲータイの歌手にも独自のファンやサポーターたちがいます。ゲータイに行かなくては歌が聴けないので。全く別の世界なのです」(次の頁へ)
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