息もできない(クソ蠅/Breathless)
story
殴られている女を救った男。しかし男は、女の頬を叩きながら罵倒する。「お前は殴られてばかりでいいのかよ!」
男の名はサンフン(ヤン・イクチュン)。友人でもある先輩マンシク(チョン・マンシク)の元で取り立て屋をやっている粗暴な男だ。ストライキを潰したり、露店の強制撤去をしたり…。仲間さえも怖がらせているサンフンだが、姉の息子ヒョンイン(キム・ヒス)のことは、言葉は乱暴だが可愛がっていた。
ある日、サンフンの吐いた唾が、偶然通りかかった女子高生ヨニ(キム・コッピ)の胸元にかかってしまう。気の強いヨニはサンフンにひるまず文句をつけ、二人は喧嘩に。ヨニはサンフンに殴られて気を失うが、目を覚ますと、サンフンはまだそこいた。彼女が気づくのを待っていたのだ。ヨニはサンフンにビールをおごらせる。年は離れているものの、互いの中に、二人は何か引き合うものを感じていた。
サンフンの父、スンチョル(パク・チョンスン)が刑務所を出所する。かつて父は母に暴力をふるいつづけ、それが元で、妹と母を死なせた。以来、サンフンは父に憎しみを抱きつづけて生きてきた。一方ヨニには、ベトナム戦争の後遺症で心を病み、働けなくなった父(チェ・ヨンミン)がいる。代わりに露店に出ていた母は、強制撤去の最中に暴力団のような連中に撲殺されてしまった。弟のヨンジェ(イ・ファン)は高校にも行かず、毎日暴力的な態度でヨニに金をせびり、父とも喧嘩しては荒れている。
サンフンは、ふたたびヨニに出会う。ものおじせず彼をからかうヨニの態度に、なぜか心が和らぐサンフン。ある時、いつものように甥っこのヒョンインに会いに行ったサンフンは、ヒョンインが友だちに、父親がいないことでからかわれているのを見て、ヨニに電話する。すぐに学校を抜け出すヨニ。サンフンとヨニとヒョンイン、それぞれに淋しさを抱えた3人は、短いけれど楽しい時間を過ごすのだった…。
●アジコのおすすめポイント:
「自分の中のもどかしさを吐き出したかった」と語る俳優ヤン・イクチュンの監督デビュー作です。韓国の歴史的な背景から生まれた家族の歪みを、自信の体験を元に描き、監督自身にとっての癒しの作品にもなったという渾身作。自分を守る鎧として、暴力や反抗心を身につけてしまった男女が出会い、年齢差を越えて惹かれ会い、あたかも氷が溶けるように頑な心を開き、普通の幸せを求めていく様子は微笑ましく、救われる場面です。暴力とは何か、家族とは何か、幸せとは何か…しっかりと向き合った作品となっており、数々の映画賞に輝いているのも納得。特に主演の2人が素晴らしく、見るからにヤクザなチンピラを演じている監督の変貌ぶりもさすが。(実際はカジュアルで今風なお兄ちゃん)昨年の東京フィルメックスで受賞した時の、喜びのダンスを踊るキュートな姿が思い出されます。俳優としても注目です。
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