ある海辺の詩人−小さなヴェニスで− (Io Sono Li/Shun Li And The Poet)
story
イタリアの縫製工場で働く中国人女性、シュン・リー(チャオ・タオ)。屈原の詩を愛する彼女は、同僚の中国人女性と一緒にバスタブに水をはり、明りを灯したキャンドルを浮かべて詩人を偲ぶ。そんな彼女には、故郷に残して来た息子がいる。借金を返して息子を呼び寄せるため、シュン・リーは毎日仕事に精を出す。
そんなある日、シュン・リーはキオッジャという小さな港町へ行くよう命じられる。そこはラグーナ(潟)に浮かぶ美しい漁師町で、町を流れる運河には昔ながらの建物が並び、海にはたくさんの漁船と漁師として生きてきた男たちの姿があった。シュン・リーは、海辺に佇むパラディーゾ(天国)という名の小さな酒場(オステリア)で働くことになる。
店には毎晩のように常連客がいた。ビリヤードやカードゲームをしたり、本や新聞を読み、そして酒を交わす海の男たち。この店は彼らにとっての憩いの場、心の拠りどころだった。そこで、異国の地からやって来たシュン・リーは、地元の人しかわからないような飲みものの作り方を教わり、片言のイタリア語でツケ代を要求した。
男たちはそんな彼女を少しからかいながらも、快く受け入れる。特に、詩人と呼ばれているベーピ(ラデ・シェルベッジア)は、偶然二人きりで話したことがキッカケで、親近感を覚えるようになる。二人は徐々に親しくなっていくが、古い町の人々はそのことをよく思わず、店のボスからも交流を禁じられてしまう。
●アジコのおすすめポイント:
冒頭、中国人コミュニティで働くチャオ・タオの姿を見て、まるでジャ・ジャンクーの映画みたいだなあと思ったのですが、美しい漁師町キオッジャが舞台になるあたりから、これはイタリアの映画だったのだと実感します。片言のイタリア語で酒場の男たちに給仕する姿は微笑ましく、老漁師たちとの交流もほのぼのとしたもの。そんな中、ベーピとシュン・リーの想いは深まっていきます。儚くも美しい出会いと別れ、人間としての尊厳と思いやり、生きる力…そんな、いろんな感情を封じ込めた、美しい絵画のような作品です。
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