東京に来たばかり
(初到東京/Tokyo Newcomer)
story
中国で天才棋士として注目された吉流(チン・ハオ)は、さらなる修行のため東京へやって来た。初めての雑踏を歩き、アメ横の友人を訪ねたものの、頼りにならず途方に暮れる。そんな時、道ばたで荷物を落とし、散らばった碁石を拾ってくれたのが老婆の五十嵐君江(倍賞千恵子)だった。
君江は野菜の入った箱をいくつもしょって、千葉から東京へ行商に来ていた。同じバスに乗った吉流は、小柄な体で重い荷物を背に運ぶ君江を見て、同じ停留所で降りて手伝おうとするが断られる。しかし、君江に気に入られ、カプセルホテルの清掃の仕事を紹介してくれた上、千葉の自宅にも招いてくれた。
立派な門構えの古い日本家屋で、君江は一人で暮らしていた。吉流が訪ねた日、孫の翔一(中泉英雄)もバイクに乗ってやって来た。しかし、君江は食事をふるまいながらも、翔一のことは無視している。吉流と翔一はすぐに打ち解け、吉流は翔一が働いているボウリング場に誘われる。そこには翔一の恋人、奈菜子(チャン・チュンニン)がいた。
ある日、わき腹を刺された翔一が吉流のアパートに逃げ込んで来る。奈菜子を守るために暴力団と喧嘩し、ひとりを殺してしまったらしい。奈菜子のために彼女と別れ、警察の目を恐れて病院へも行かない翔一を、吉流は君江のもとへ連れて行く。その頃、吉流は関東アマチュア囲碁選手権大会の予選リーグを勝ち進んでいた…。
●アジコのおすすめポイント:
日本で8年間、映画を学んでいたジャン・チンミン監督が、自身の体験を元に94年に書きあげた脚本を映画化した作品です。その頃から、農婦役は大ファンの倍賞千恵子に決めていたという監督。その期待に応え、気丈で頑固な農婦と元伝説の棋士という2つの顔を持つ君江役を、倍賞千恵子が見事に演じています。中国で発祥し日本に伝わった囲碁をモチーフに、日本に溶け込んで暮らす中国人たち(チャン・チュンニンやティエン・ユエンら)の生活もさり気なく盛り込んだ本作。吉流と翔一の関係も興味深く、思いがけない結末には静かな感動と深い余韻が残ります。あえて深入りしない、不思議な展開ではあるものの、日本の佇まいや美しさを静謐に描いた、日本への愛が溢れる作品となっています。尚、クランクインは2011年5月。大震災後に東京で撮影した初の外国撮影チームになりました。
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