I am ICHIHASHI 逮捕されるまで
(I am ICHIHASHI)
story
2007年3月26日、千葉県。刑事が市川市内のマンションの玄関を叩いた。その扉を開け、中から出てきた若い男はいきなり猛然と走り出し、包囲網をすり抜けて非常階段を駆け下りていく。マンションでは、行方不明になっていたイギリス人女性の変死体が発見された。これが殺人犯、市橋達也(ディーン・フジオカ)の長い逃亡生活の始まりだった。
北関東周辺や青森県などをあてどなくさまよった市橋は、帽子とマスクでカムフラージュし、死者が蘇ることを願って四国でお遍路の旅をしていた。そして、神社の賽銭箱を壊して金を奪い、図書館で日本地図を盗み出す。自殺をする勇気も自首するつもりもない市橋が思いついたのは、無人島での生活だった。
松山からフェリーで那覇に渡った市橋は、ネットカフェで美容整形手術の費用を調べる。そして、金を稼ぐため「神奈川県出身のウエシマ、28歳の引きこもり」と偽り、建築現場で資材運びの職を得る。やがて、指名手配になると職場から姿を消し、食料や金物を購入して久米島に向かい、奥武島へと渡るのだった。
奥武島からオーハ島に渡った市橋は、コンクリート造りの廃屋で寝泊まりし、ペットボトルに野菜の種を植えた。海で釣った魚をさばいて食べ、夜はロウソクの灯りで本を読んだ。そこは他人目を気にせずにいられる、自分だけの場所だった。しかし、やがて食糧が尽きて苛立つようになる。逃亡開始から1年7ヶ月が経っていた。
フェリーで沖縄を発った市橋は、名古屋市の整形外科を訪れる。ウエダと名乗ったが「写真を撮らないと手術はできないんですよ」と医師に告げられ、やむなく応じる。それは、逃亡犯にとって致命的なミスだった…。
●アジコのおすすめポイント:
『おくりびと』や『闇の子供たち』で知られる中沢敏明プロデューサーが「日本を俯瞰的に見る独特な感性と考え方」に着目し、監督を依頼したのが、台湾で活躍するディーン・フジオカです。このリスキーな作品で監督デビュー、さらに市橋役を熱演したディーンは、まさに勝負に出た!という印象。クリエイターとしての素養を持つ彼らしく、アートな映像も交えながら、劇中で市橋役と彼を撮影する男(自分)を対峙させ、自身のスタンスも示しています。エンディングで流れる自作自演の「My Dimension」(日本デビューシングル・配信中)も映像とマッチ。内容は問題作ですが、クリエイターとしてのディーンの感性や存在感が充分に感じられる作品に仕上がっています。
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