光りの墓(Cemetery Of Splendour)
story
タイ東北部イサーン。かつて学校だった仮設病院に、松葉杖をついた主婦ジェン(ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー)が知り合いの看護師を訪ねてやってきた。そこには原因不明の「眠り病」にかかった兵士たちが眠っている。ここが学校だった頃、ジェンはここの生徒だった。外では何かの工事が行われている。
見舞いの家族がいない兵士イット(ジャリンパッタラー・ルアンラム)の世話をするジェン。病室には、死者や失踪者の魂と交信したり、前世を見たりする特殊能力がある若い女性ケン(ジャリンパッタラー・ルアンラム)がいて、眠る兵士の魂と交信して彼らの家族を助けていた。ジェンはケンと親しくなる。
病院にアフガニスタンの米兵にも効果があったという機械が設置される。青、緑、赤……。色を変える光を使った治療が実施される。瞑想の先生もやってくる。瞑想で脳の働きを訓練できるという。みんなが練習する中、ジェンはノートを読んでいる。イットのノートだ。そこには不思議な言葉や設計図のようなものが書かれている。
ジェンが身体にクリームを塗ってあげていると、イットが目覚めた。イットは南部の人間だったが、イサーン語が話せた。食堂でジェンとイットが話していると、急に眠りに落ちる患者の姿もあった。
湖のそばのお堂で、ジェンはいつものように王女様の像に祈った。アメリカ人の夫もいる。新しい息子のイットが健康でいられますように…。王女様たちが今風の姿でジェンの前に現れ、病院のある場所には王様たちの墓があると告げる。王様たちは兵士の生気を吸って今も戦いを続けているから、兵士たちは眠っているのだと。
●アジコのおすすめポイント:
アピチャッポン監督の記憶の断片と豊潤なイマジネーションで綴られる、新たな物語が誕生しました。眠り続ける兵士たちと彼らを見守る人々。様々な色に変化する光治療の妖しい人工の光。突如、現れる古代の王女様たち。遠い過去と現在が眠りの中で繋がり、目覚めた兵士との関係が、主人公の感情を揺さぶっていきます。果たして、彼女は何を見ているのか…。いつものように、心地よい自然音に包まれて始まる本作にも、監督らしいユーモラスなセリフやエピソードが散りばめられています。空を飛ぶあの物体は何?と、観客の想像力を喚起する映像表現は、アーティストならでは。故郷への愛情がたっぷり詰まった本作が醸し出す穏やかな優しさは、監督そのものとも言えるでしょう。
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