セールスマン(Forushande/The Salesman)
story
テヘランに住む若い夫婦エマッド(シャハブ・ホセイニ)とラナ(タラネ・アリドゥスティ)のアパートが、突然、倒壊の危機にさらされる。隣の敷地で行われている強引な建設工事のせいだった。アパートの住人たちは、一斉に避難。二人は新しい部屋を探さなくてはならなくなる。
国語教師のエマッドはラナと地元の小さな劇団に参加しており、上演を間近に控えたアーサー・ミラー作の「セールスマンの死」の稽古に忙しい。劇団仲間のババク(ババク・カリミ)が、二人にいい物件があると賃貸物件を紹介してくれた。そこには、前の住人の私物が大量に残されていたが、夫婦はそのアパートが気に入り移り住むことにする。
前の住人は女と子どもで、連絡が取れなくなっていた。残された私物は屋外に出し、二人は新しい生活を始める。そして「セールスマンの死」の初日を迎えた夜、事件が起こった。夫よりもひと足早く帰宅したラナがシャワーを浴びている時、夫が帰ってきたものと勘違いし、侵入者を入れてしまったのだ。エマッドが帰ってきた時、ラナは侵入者に襲われて大怪我をし、病院へ運ばれていた。
隣人たちは、前に住んでいた女の客ではないかと話していた。その女はふしだらな商売で、何人もの男を部屋に連れ込んでいたのだ。この事件以来、夫婦の生活は一変した。ラナは精神的にもダメージを負い、めっきり口数が少なくなった。一方、エマッドは犯人が置き忘れていった携帯電話と鍵束を発見。携帯は解約されていたが、鍵はアパートの近くに止めてあった白い軽トラックのものだった。
エマッドは「警察に行こう」と主張するが、事件を表沙汰にしたくないラナはそれを頑なに拒んでいた。二人の感情は次第にすれ違っていく。エマッドは自力で犯人を探し出そうと決意。トラックを手がかりに、パン屋で働くマジッド(モジュタバ・ピルザデー)という若い男にたどり着く…。
アジコのおすすめポイント:
今年の米アカデミー賞で『別離』(11)に続き、2度目の外国語映画賞に輝いた作品です。というよりも、トランプ政権のイランを含む移民や難民の入国制限命令に抗議して、監督と主演女優が授賞式への参加をボイコット。にもかかわらず受賞して、アカデミー賞自体がこの抗議を支援した形となり、大きな話題となりました。そういう政治的な背景は別にしても、さすがはアスガー・ファルハディ監督。『別離』と同じく、人間性が深く揺さぶられるなかなかの野心作となっています。舞台俳優の夫婦という現代的ライフスタイルを持ちながら、事件が起こると伝統的な価値観から逃れられない男女の葛藤が痛々しく、犯人探しの果てに起こる出来事はさらに衝撃的。同時進行で進む舞台劇「セールスマンの死」と呼応して、深い余韻を残します。主演は『彼女が消えた浜辺』のタリア・アリドゥスティと『別離』のシャハブ・ホセイニ。イラン社会のことをよく知らない方でも、予想のつかないサスペンスドラマとして楽しめます。
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