裁き(Court)
story
白髪の男が路地へ入ると、子供たちが親しげに寄ってくる。彼は家の一室に子供たちを集め、いつものように勉強を教え始める。授業が終わると、男は集会所のイベント広場へ向かった。ステージでは歌手が歌を歌っている。次は男の出番だ。「民衆詩人カンブレ」と紹介された彼の名はナーラーヤン・カンブレ(ヴィーラー・サーティダル)。彼はメッセージを込めた歌を力強く歌った。
そこへ警察が乱入し、カンブレを逮捕する。罪状は自殺を助長する歌を歌ったこと。下水清掃人の死体が、ムンバイのマンホールで発見されたのだ。カンブレの同志のスボード(シリーシュ・パワル)が弁護士を依頼し、ヴィナイ・ヴォーラー(ヴィヴェーク・ゴーンパル)が事情聴取のため警察署に向かう。
下級裁判所で裁判が始まった。ヴォーラーは容疑の内容から保釈を要求するが、公正を重んじる裁判長サダーヴァルテー(プラディープ・ジョーシー)に却下されてしまう。同じ法廷でいくつもの裁判が順番に開かれており、審議は数分で次回に持ち込まれた。
2回目の公判で女性検事ヌータン(ギーターンジャリ・クルカルニー)が罪状を読み上げる。彼の歌った扇動的な歌詞の内容が、被害者を自殺へ駆り立てたこと。さらに政治的活動を続けてきた過去も暴かれ、カンブレは不利な立場に立たされる。ヌータンは、100年以上も前の法律を持ち出して、刑の早期確定を迫っていた。
審議は少しずつしか進まず、ヴォーラーは根気強く証拠や証人を集めていく。人権派のヴォーラー弁護士だが、実家は大金持ち。高級スーパーでお買い物するセレブな生活を送っている。一方、検事ヌータンは電車通勤で、帰宅する前に学童保育に預けた息子を引き取り、夕食の支度をする主婦。家族で演劇を観に行ったりする。やり手の裁判官サダーヴァルテーにもオフの顔があった…。
アジコのおすすめポイント:
快進撃を続けるインド映画界から、またまた新手の若手監督が登場。27歳という若さで本作の脚本・監督を手がけ、世界の映画祭をうならせたチャイタニヤ・タームハネー監督は、米業界誌ハリウッド・レポーターで「世界で最も将来が期待されている30歳以下の映画監督の一人」に挙げられています。そんな彼が作った本作はというと、いわゆる法廷劇ではまったくありません。そこに描かれているのは、監督自身が興味を惹かれた下級裁判所の様子と、そこに集う人々のドラマ。容疑者、弁護士、検事、裁判官と、それぞれの仕事ぶりに背景も描かれ、カースト制が残るインド社会の多面性を描き出しています。のんびりと進む裁判はどこかユーモラス。果たして、カンブレは無事に釈放されるのでしょうか? 弁護士役を演じたヴィヴェーク・ゴーンパルは、本作のプロデュースをかって出、製作会社も設立しています。インド事情に詳しいほど細かく楽しめる内容なので、松岡環さんのブログで事前学習をするのもおすすめ。連載記事「7月のインド映画『裁き』を待て!」(6に過去記事へのリンクあり)をご覧になると、より理解が深まります。
|