世界で一番ゴッホを描いた男
(中國梵高/China's Van Goghs)
story
中国の南部、深[土川]市にある大芬(ダーフェン)は、世界最大の「油画村」と呼ばれている。ゴッホをはじめとする有名画家の複製画が産業として確立し、世界市場の6割の複製油画が制作されているのだ。1989年に香港の画商が20人の画工を連れてきたのがこの街の始まりで、現在、画工は1万人を超えている。
深[土川]で画家を目指す者はまず、大芬にやって来る。複製画のみを手がける絵描きは「画工」と呼ばれ、「画家」となるには公募展に3回入選しなければならない。「画家」になると専用の住居に格安で入れるなど、優遇政策がとられている。大芬で「画家」となれたのは300人もいないというが、最近ではオリジナル作品を制作する「画家」も増えてきている。
出稼ぎでこの街にやって来た趙小勇(チャオ・シャオヨン)は、独学で油絵を学び、20年もの間、ゴッホの複製画を描き続けている。絵を描くのも食事も寝るのも、全て工房の中。妻は最初の弟子だった。上の娘は大芬生まれだが、親が出稼ぎのため都市戸籍がなく、郷里の学校に通っている。しかし方言が全くわからず、先生が何を言っているのかわからないと嘆く。
趙小勇は複製画制作はビジネスで、自分はあくまで職人だと言いきかせている。複製画にこだわりとプライドを持っているが、一方で、単なる職人と割り切れない芸術家としての葛藤も心をよぎる。果たして、自分は鑑賞にたえる作品を生み出しているのだろうか。いつしか、彼は夢にまで見るゴッホの本物の絵画を見に行きたいと願うようになる。
そしてついに、その夢が実現する時が来た。アムステルダムへの旅で彼が知った複製画の真実とは? そして、本物のゴッホの絵画から受けた衝撃とは? 彼の人生はどう変わっていくのだろうか?
アジコのおすすめポイント:
20年間もゴッホの複製画を描き続けてきた男性に焦点をあて、彼の職人としてのプライドと芸術家への憧れ、本物に触れたいという夢を追ったドキュメンタリーです。監督したのは深[土川]でフォトグラファーとして活躍するユイ・ハイポーと、その娘でプロデューサーでもあるキキ・ティンチー・ユイ。ユイ・ハイポーがずっと写真を撮ってきた大芬の一人一人の物語を映画として表現するため、2011年から娘と撮影をはじめ、撮影中に変化が生じた2人、趙小勇(チャオ・シャオヨン)と周永久(チョウ・ヨンジウ)にスポット当てています。特に、憧れのアムステルダムを訪れ、夢にまで見たゴッホの本物の絵画を観ることができた趙小勇(チャオ・シャオヨン)さんの物語は印象的。職人か、芸術家か。20年以上もゴッホの絵を描いていれば、そして彼の生き方に心酔していれば、自分自身をそこに重ねるようになったのも無理はないでしょう。そして彼が見た真実と受けた衝撃は、彼のこれからの人生を大きく変えていくことになります。NHK「BS世界のドキュメンタリー」でも短縮版が放映され反響を呼んだ本作。実に見応えのあるドキュメンタリーです。
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