誰がための日々(一念無明/Mad World)
story
ホイ(エリック・ツァン)は精神病院を訪れる。入院していた息子トン(ショーン・ユー)が退院するのだ。「奥さんの事故と息子さんの病気は関係ありません。家族の支えが一番大切です」医者から病状を聞き、薬をもらったホイは、トンを連れて自分が間借りしている狭い部屋へ連れ帰る。
トンはエリート会社員だったが、事故で体が不自由になった母親(エレイン・ジン)の介護で、会社を辞めていた。ホイはトラック運転手をしており、家に寄り付かなくなっていた。弟はアメリカで仕事と家庭を持って帰ってこない。トンは母の下の世話までしていたが、母は弟のことだけを気にかけ、トンに辛くあたっていた。
ストレスが次第にトンの心を蝕んでいった。そんなある日、浴室で母と口論になって事故が起き、母は亡くなる。裁判でトンの無実が証明されるが、トンは躁鬱症の診断を受け入院させられたのだった。
「母さんと住んでた部屋は引き払ったよ」2段ベッドが半分を占める部屋で、ホイはトンに気を遣うが、どこかぎこちない。トンは仕事探しを始めるが、病歴が影響してどこもうまくいかなかった。元同僚の結婚式に押しかけたトンは、婚約者のジェニー(シャーメイン・フォン)を探し始める。
ジェニーから連絡があり、トンは彼女の好きな料理を並べてレストランで再会する。ジェニーはトンが隠していた借金をほぼ返済し、一緒に買ったマンションを抵当にしなくていいよう必死で働いていた。彼女は自分の気持ちを伝えるため、トンを教会へ連れていくのだが…。
アジコのおすすめポイント:
私たちにも身近な介護問題から派生する様々な問題を凝縮し、濃密な人間ドラマに仕立てた秀作です。香港政府による新人発掘プロジェクト「首部劇場電影計画」の第1回受賞企画で、脚本はフローレンス・チャン。監督は撮影当時20代後半だったという新人のウォン・ジョンが担当しています。制作費は200万香港ドル(約3000万円)。16日間で撮影されましたが、ショーン・ユー、エリック・ツァン、エレイン・ジンと、演技派の豪華スター俳優たちがほぼノーギャラで出演し、作品に風格を与えています。物語の背景には、父が住んでいる狭い共同部屋や、様々な同居人たち。海外へ出て戻って来ない家族や、過労で自殺してしまう友人など、今の香港が抱えている社会問題も盛り込まれています。介護うつから起こる痛ましい事故のニュースは世界共通。そんな中でいかに人間性を回復していくか、家族や周囲の人々のサポートも必要だし、自分自身も問題と向き合っていかなくてはなりません。疎遠だった父と息子のぎこちない親子関係を描きながら、病気との向き合いかた、周囲の理解の必要性を静かに訴える本作。重いテーマの中に微笑ましく温かい場面も描かれ、味わい深い作品となっています。
|