狼をさがして(-----)
story
大阪の釜ヶ崎で日雇い労働者を撮影していたキム・ミレ監督は、かつてここで誕生した東アジア反日武装戦線の存在を知り、彼らが何を考えて行動したのかを辿るドキュメントを撮り始める。
彼らは東アジア反日武装戦線「狼」と名乗り、1974年8月30日の三菱重工業本社ビル爆破事件を発端に、別働隊「大地の牙」「さそり」も現れ、翌年の5月までに旧財閥系企業や大手ゼネコンを標的に連続企業爆破事件を起こした。その目的は「日帝の侵略企業・植民者に対する攻撃」であり、当時の日本社会を震撼させた。
1974年5月19日、東アジア反日武装戦線は一斉逮捕される。しかし、彼らの素顔は会社員として普通に市民生活を送る20代半ばの若者たちで、人々を驚かせた。リーダーを持つ組織集団ではなく、自発的に起こった蜂起でもあった。
その後、彼らは皆、人を殺めてしまった行動を悔いている。だが、彼らが何を考え、何を変えようとしたのかは知られていない。その背景には日本帝国主義への原罪意識があった。監督は中心人物として収監されていた大道寺将司の従兄や妹、同級生、元メンバーや彼らを支援する人々にインタビューを重ねていく。
アジコのおすすめポイント:
1970年代に発足し、戦争責任の対象を具体化して日本企業の連続爆破事件を起こした「東アジア反日武装戦線」に焦点をあて、彼らの真意を追ったドキュメンタリーです。監督は韓国と日本の労働問題や人権問題をテーマに映画を撮り続けるキム・ミレ監督。映画でも語られますが、日本で日雇い労働をしていた父親の記録を作りたいというのが発端です。その最中に「日本の日雇い労働の前身は東アジア反日武装戦線なので、彼らの映画を作って欲しい」と頼まれたのでした。それから、2014年のセウォル号事件を経て国家や権力の責任問題に思いを馳せた監督が、歴史学者の藤井たけし氏との協力で、2016年から撮影を始めています。獄中の彼らも、元メンバーや家族、友人、彼らを支援する人々も、8名の死者と約380名の負傷者を出してしまった行動については間違っていたと悔い、批判もしています。が、もともとの真意の底には、差別や虐待を目の当たりにしたという個人的な体験があり、それを突き詰めていった結果という側面もあるようです。現代社会にもコロナだけでなく、日本にも世界にも様々な問題や歪みが山積していますが、自分はそれらとどう向き合っていくのかが問われます。
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