湖底の空(SORA)
story
プールで水に浮かんでいると、空(イ・テギョン)はある記憶に吸い込まれそうになる。それは、生まれ育ったダム湖の水面。ぼんやりと眩しい太陽の光。着替える時、鏡で自分の胸を確かめるように眺める。私は空だ。
空(そら)と海(かい)は、日本人の父・高志(武田裕光)と韓国人の母・チスク(みょんふぁ)の間に生まれた一卵性双生児の姉弟だ。生まれ育ったのは民族芸能が盛んな韓国の安東(あんどん)。近くには大きなダム湖があり、母はその湖畔で民芸品店を営んでいる。父はカメラマンで、空と海は絵を描くのが得意。どちらが上手か、いつも競いあっていた。そして、海は負けず嫌いだった。
28歳になった空は中国の上海で暮らしている。イラストレーターをめざして売り込みを続けているが、なかなか採用されないでいた。だが、出版社に勤める望月隼人(阿部力)は空の絵を気に入っており、新しい絵本の挿絵の仕事を紹介してくれた。気難しい作家らしいが、空は頑張って見本を仕上げる。独特な世界観を持つ空の絵は、その作家(アグネス・チャン)に気に入られた。
だが、空にはコンプレックスがあった。海の方が絵は上手い。その海は性同一障害で悩み、女性の身体になっている。中国人と日本人のハーフで、日本で辛い経験のある望月は、空の話に理解を示し、同時に好意も感じていた。そこで、お祝いの食事に誘い、告白しようと考える。一方、空の部屋に海(うみ/イ・テギョン二役)がやって来た。海は消極的な空に、面白そうに恋をけしかける。
約束の夜、和食の料亭に現れたのは、空ではなく海だった。望月は戸惑う…。
アジコのおすすめポイント:
韓国と中国を舞台にしたミステリアスなヒューマンドラマです。一卵性双生児の美しい女性と恋に落ちるミステリアスな合作映画というと、2014年に公開された行定勲監督の『真夜中の五分前』が思い浮かびますが、あちらはサスペンス・ラブストーリー。本作は性同一障害で女性となった自由奔放な弟を持つ一卵性双生児の姉と弟、二人の不思議な関係が主軸となっています。幸せを避けるように暮らす姉と、魔性さえ匂わせる弟。果たして二人の関係とは? そして、湖の存在とは? 監督はファンタジックな作品を撮り続けている佐藤智也。異性一卵性双生児を主人公にジェンダーの問題やサバイバーズ・ギルトなどを盛り込み、国籍や言葉を意識させない合作映画を作りあげています。双子を演じたのは韓国のインディーズ映画界で活躍するイ・テギョン。二人に翻弄される男を阿部力が演じ、爽やかさをプラスしてくれました。
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