森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民
(Mlabri in the Woods)
story
タイ北部のドーイプライワン村。朝食の用意をする青年は、世代の違う仲間と暮らすムラブリ族だ。昔は森で移動しながら自由に暮らし、狩猟で食糧を調達していたが、今は粗末な家に定住している。学費が払えなくなってから、学校へは行っていない。買い物は村の中心へでかける。店の女主人は「ムラブリは優しいが、食べてばかり」と笑う。
同じく北部にあるフワイヤク村。ここには400人ほどのムラブリが暮らす集落がある。森にいた頃と変わらず、互いに助け合って暮らし、食糧は分け合う。モン族のトウモロコシ畑で働き、稼ぎは1日200バーツ。テレビ放送はテレビのある家に皆で集まって見る。彼らは文字を持たず、伝承の物語を信じ、酒を飲めば即興で民謡も唄う。
日本から来た言語学者の伊藤雄馬は、1930年代に民族学者ベルナツィークがムラブリと接触して書いた「黄色い葉の精霊」に影響を受け、現地に入ってムラブリ語の文法や辞書を作り、方言を研究している。カメラは彼と共に、ムラブリの人たちの暮らしを写し出す。伊藤はフワイヤク村の一人に頼んで、森で狩猟民として生活していた頃の姿や芋掘りの様子を再現してもらう。
フワイヤク村の人びとは、入れ墨のあるムラブリを恐れていた。凶暴な人喰い人種だったようだ。彼らはラオス側の森に住んでいるという。伊藤はラオス側に住むムラブリを訪ね、サイニャブリー県のある村を訪れる。村で話を聞くと、彼らは移動生活をしており、今はとある野営地にいるという。
野営地のある森へ入って行くと、ちょうど町へ買い物に来たカムノイと出くわした。彼らは野営地と村を行ったり来たりしていた。伊藤たちは野営地を訪れ、カムノイの家族や野営地での生活ぶりを体験する。危険な入れ墨族はすでにおらず、彼らも心優しく助け合うムラブリだった。伊藤は離れて暮らすムラブリたちを交流させたいと思う…。
アジコのおすすめポイント:
タイ北部やラオス西部のゾミアと呼ばれる山岳地帯で暮らす少数民族ムラブリ族の過去と現在の姿を、現地でムラブリ語を収集している言語学者・伊藤雄馬さんに密着して撮影した貴重なドキュメンタリーです。定住せず森の中で移動生活を続け、半裸の狩猟民として生きてきたムラブリ族。1930年代に民族学者のベルナツィークが彼らと接触。『黄色い葉の精霊』という著書で紹介し、欧米で知られるようになりましたが、その後、民族誌以外で語られることはなく、100年近く経った今、なんと日本のカメラが彼らの今の生活を記録することに成功しています。監督はドキュメンタリー映像作家の金子遊。「ムラブリ語の響きが美しいから」という動機で研究を始めた言語学者の伊藤雄馬と出会ったことで、本作の撮影が実現しました。
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