あなたの顔の前に
(あなたの顔の前に/In Front of Your Face)
story
サンオク(イ・ヘヨン)は、妹ジョンオク(チョ・ユニ)のマンションで目覚め、まだ眠っているジョンオクの寝顔をじっと見つめていた。元女優で、引退してアメリカ暮らしをしていたサンオク。それまで姉妹は疎遠だったが、突然サンオクが帰国したのだ。
その日は晴天で、サンオクとジョンオクは川沿いのカフェで朝食を食べた。「お姉さんもここに住めばいいのに」と、近くで工事中の新築マンションを勧めるジョンオク。彼女は自分をソウルに残して渡米した姉を恨んでいた。「なんで帰ってきたの?驚いたわ」「ただ、会いたくて」
花々が咲き誇る公園で、二人は通りすがりの女性(ソ・ヨンファとイ・ユンミ)に写真を撮ってもらう。「俳優さんでは?」1人が話しかけてきた。その後、ジョンオクの息子スンウォン(シン・ソクホ)のトッポギ店に立ち寄る。スンウォンは大好きな伯母に財布をプレゼントした。
サンオクはジョンオクと別れ、タクシーで梨泰院へ向かう。昔住んでいた家を訪ねたのだ。緑が生い茂る庭は昔のままだった。家は洒落た店舗に改装され、親切な店主(キム・セビョク)に梅茶をご馳走になる。
その後、サンオクは仁寺洞の「小説」という居酒屋で、彼女に連絡してきた見知らぬ映画監督ソン・ジェウォン(クォン・ヘヒョ)と対面するのだが…。
アジコのおすすめポイント:
静かな映像の中で、1人の女性の生き様が表情だけで雄弁に語られていく美しい物語です。ネタバレ承知で書きますが、主人公は死期を悟った元女優。その方がより深く、映像を味わえます。残り時間の少なくなった孤独な中年女性が、大切な人々に会い、懐かしい場所を訪れ、女優時代の彼女を覚えてくれていた人と会い、つかの間の夢を見ます。これはまさに、主演したイ・ヘヨンなしでは完成しない作品。80年代の韓国映画を代表する女優だったイ・ヘヨンですが、おそらく韓国ドラマから入ったファンの皆さんには、あの名作「ごめん、愛してる」のオ・ドゥリ役の印象が強いことでしょう。(映画では『血も涙もなく』『ザ・ゲーム』などに出演)そんなイ・ヘヨンが、この作品を通じて、これまでに感じたことのなかった自由を感じ、あらためて女優開眼。表現者としての自信を持つきっかけとなっています。女優イ・ヘヨンの魅力が生かされた本作。それは、ホン・サンス監督にとってもこれまでとは異なる新機軸となりました。最新作『The Novelist's Film』でも主演しており、公開が楽しみです。
|