プアン/友だちと呼ばせて(One for the Road)
story
夏、バンコク。亡くなった父、DJチャーンウット(タネート・ワラークンヌクロ)の音楽番組「ミッドナイトライダーズ」を聴きながら、ウード(アイス・ナタラット)はスマホの連絡先を削除していく。心残りのある人だけを残して。
秋、ニューヨークのマンハッタン。自分のバーで女性を口説いては部屋に連れ込むボス(トー・タナポップ)に、ウードから電話がかかってくる。一緒にバーをやるはずだったのに勝手に帰ってしまい、もう何年も会っていない。だが、彼は白血病になり余命宣告を受けていた。「頼みがある」「力になるよ」
バンコクへ戻ったボスは、ウードが住むチャンタラチョーク・レコードを訪れる。店は閉じていて、上の階にいたウードは瘦せこけ、治療でスキンヘッドになっていた。「アリス(プローイ・ホーワン)に返したいものがある」ウードには運転手が必要だった。二人はウードの父のBMWに乗りこむ。
行き先は、アリスのダンス教室があるコラート。かつらと帽子を被ったウードは、再会したアリスにピンクのボストンバッグを返し、二人でダンスを踊った。そして、言いたかったことを告げる。アリスは元気そうだ。次はヌーナー(オークベープ・チュティモン)に会うという。怒ったボスは、終わったら化学療法を受けると約束させる。
サムットソンクラームに到着すると、ヌーナーは撮影中だった。ニューヨークで女優の卵だった彼女は、夢を叶えたのだ。だが、ロケ中で近づけそうにない。ボスはバイク集団に邪魔させてロケを中断させる。ウードは休憩中のヌーナーと会うが、彼女は怒っていた。その怒りをロケにぶつけ、撮影は大成功。結末は胸に沁みたが、これでいい。
飲み屋で休憩中、ウードが血を吐いた。医者は数日休んだ方がいいと言うが、回復したウードはルン(ヌン・シラパン)と約束したからチェンマイへ行くという。ニューヨークで会ったルンはカメラマンだった。幸せな再会を夢に見るが、当日はひどい雨。彼女は居留守を使い、会えなかった。窓から幼い娘が笑顔を見せていた。
父の墓参りをした後、ウードは遺灰を川に撒く。ボスの提案で彼の実家があるパタヤへ向かった。大きなリゾートホテルの最上階。ボスの家はスーパーセレブだが、家庭環境は複雑だった。ロビーラウンジでボスの作るカクテルを飲むウード。そして、ついにウードは告白する。「君にプリム(ヴィオーレット・ウォーティア)を返したい」それは、ボスの初恋の人だ。3人に何があったのだろうか…。
アジコのおすすめポイント:
白血病で余命宣告を受けた青年が、ニューヨーク時代に知り合った友人を呼び寄せ、彼を運転手に父の遺したヴィンテージBMWで元カノたちを訪ね、様々な忘れ物(物や当時、言えなかったことなど)を届けに行くロードムービーです。プロデューサーはあの巨匠ウォン・カーウァイ。『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』を観て、その才能に惚れ込んだバズ・プーンピリヤ監督に脚本開発から依頼。監督自身の体験を盛り込んだプライベートな作品に仕上がりました。主人公を演じるのは、同じ歳でモデル出身でもある長身のイケメン、トー・タナポップとアイス・ナッタラット。さらに、次々と登場する元カノたちもそれぞれ個性的で魅力的。キャラクターごとに照明を変えてあり、まさにウォン・カーウァイの世界を彷彿とさせます。『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』で一躍注目を浴びたチュティモン・ジョンジャルーンスックジン改め、オークベープ・チュティモンも登場。ジョン・ウー的演出が効いていて、遊び心も満載です。また、ミュージシャンでもあるタネート・ワラークンヌクロのDJで、懐かしい音楽の数々がエピソードを盛り上げます。前半の旅も素敵なのですが、一番の見所はやはりB面にあたる後半。この旅の一番の目的。ニューヨークから呼び寄せた友に返したかったものとは? 初恋や友情、夢、家族との絆…様々な要素が絶妙にブレンドされた珠玉の作品を、ぜひ大きなスクリーンでご堪能ください。(二度、三度とリピートをおすすめします!)
*8/19よりウォン・カーウァイ監督作品の4Kレストアバージョンを「WKW 4K」として特集上映予定。本作と合わせて観ると、新たな発見があるかも。
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