小さき麦の花(隠入塵煙/Return To Dust)
story
2011年、中国西北地方の農村。小屋で大切なロバの世話をするヨウティエ(ウー・レンリン)は、見合いの席に急かされる。相手は身体に障害があるクイイン(ハイ・チン)だ。一緒に食事をしただけで、話は進められ結婚が決まる。それぞれの家族の事情で厄介払いをされたのだった。
記念写真を撮り、二人の新婚生活が始まった。新居は粗末な空き家だが、一緒に家族の墓参りをして報告。砂漠の上に座り、二人でリンゴや菓子を食べた。土を耕し、畑を作り、ロバの世話をする。ぎこちないが互いを思いやる日々が続く。
村の豪農チャン・ヨンフーが入院し、輸血が必要になった。血液型はRhマイナス。村で助けられるのはヨウティエだけだ。だが、病院嫌いのため、ヨンフーの息子(ヤン・クアンルイ)が採血車を手配。チャン家で採血をすることになる。毎回、豪華な食事が用意されるが、クイインはヨウティエが心配でならなかった。
ある日、兄のヨウトン(チャオ・トンピン)に頼まれて、甥の結婚道具を運ぶことになる。ヨウティエはロバに荷物を牽かせて遅くなり、帰りは真っ暗だった。心配したクイインが路上で待っている。「なんで外にいるんだ!」と思わず声を荒らげるヨウティエ。だが、クイインは自分のためにお湯の入ったポットを懐に抱いていた。ヨウティエは街で見つけたコートをクイインにかけてあげた。
種もみの季節が過ぎ、卵からひよこを孵化させ、飼い始めた二人。軒にはツバメが巣を作っている。だが、農村改革で空き家を解体するとお金がもらえることになり、二人は追い出される。やむなく、物置で暮らし始めた二人は、日干しレンガを作り始めた。家を建てるのだ。
激しい風雨の夜、二人はレンガにカバーをかぶせていくが、風が強くてうまくいかない。泥水に足を取られて転ぶ二人。泥んこになったまま、クイインはヨウティエに初めて会った日のことを告白する。ロバに餌をやる優しいヨウティエを見て、この人となら一緒に暮らせると思ったと。
夏、二人は体を紐でつなぎ屋根の上で寝た。麦の穂が香る頃、ヨウティエはクイインの手に麦粒で花の形をつけ、お前に花を植えたよ、と目印をつけた。その年、麦は豊作だった。そして、ついに二人の家が完成する。
アジコのおすすめポイント:
つましくも豊かな夫婦愛の物語です。たまたま家族の都合でお見合いさせられ、勝手に結婚を決められた二人。それぞれの家では厄介者扱いだった二人。でも、夫婦になったことで、最初こそぎこちなかったものの、いつも一緒に過ごすうちに互いが愛おしくかけがえのないものになっていきます。その生活の日々が、季節のうつろいと共に、丁寧に描かれていきます。監督は中国の人と人、人と土地の関係や、急速に変化する片田舎の家族を描いてきたリー・ルイジュン。2014年に東京国際映画祭で上映され、翌年日本でも公開された『僕たちの家に帰ろう』では、少数民族の幼い兄弟が両親の働く場所まで旅に出るロードムービーで、最後にあっと驚く都市化の現実を見せつけていましたが、本作にも予想外の結末が待っています。ずっと見守っていたかった二人の幸せな暮らし。周囲の人々も温かい目で接しているのですが、国が進める住宅政策の波が押し寄せてきます。果たして、幸せとは何なのか?
主演は監督の叔父で農民でもあるウー・レンリンと、唯一のプロの俳優ハイ・チン。ノーメイクに顔を汚して美貌を封印。田舎で疎外されて生きてきた女性を見事に演じています。ロケ地は監督の故郷でもある甘粛省の張掖市花牆子村。中国では昨年7月に公開された後、なんと2ヶ月後に興行収入トップを記録。SNSでの高評価から火が付き、特に都市部の若者に支持され大ヒット。社会現象になり「奇跡の映画」とまで呼ばれています。ぜひ、劇場でしみじみとした感動を味わってください。
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