story
散らばったピーナッツを食べながら、テレビでチェスの対局を見る青年ラキブ(ケヴィン・アルディロバ)。外でクラクションが鳴る。慌てて部屋のドアを閉め玄関に出ると、屋敷の主プルナ(アルスウェンディ・ベニン・スワラ)の車が到着していた。
ラキブは使用人アリ(ルクマン・ロサディ)の息子で、父は刑務所に、兄はシンガポールへ行ったきり帰ってこない。一人で屋敷の留守番をしていたが、元将軍のプルナが地元の首長選挙に出馬するため、海外に家族を置いて帰ってきたのだった。
立派な肖像画のある部屋に案内するラキブ。プルナが前に会った時、ラキブはまだ赤ん坊だった。コーヒーは嫌いらしく、出したものは「飲みなさい」と勧められた。プルナは再会を懐かしみ、ラキブを「キブ」と呼んで、息子のように親しく接してくれた。その日から、プルナの世話をし選挙活動を手伝う日々が始まる。
どこへ行ってもプルナは尊敬されていた。運転手として同行するラキブも誇らしい気分になる。プルナはラキブにも特別待遇をしてくれていた。遊び仲間からも兵隊と冷やかされるほどだが、それも嬉しかった。
ある日、車をバックさせる時に過って寺院にぶつけ、地元の人々に囲まれるが、プルナが出てくると状況が変わった。彼は村人の前でラキブに謝罪させ、皆は許してくれた。刑務所の父にも面会させてくれた。だが、父は「簡単に人を信用するな」と警告する。
その帰り、プルナの選挙看板が傷つけられていた。プルナは怒って付近を調べ回る。手がかりは酒の空き瓶2本だけ。酔っ払いの仕業だろうと、警察は取り合わない。だが、ラキブは友人を使って酒を買った人物を調べさせる。犯人は高校生アグース(ユスフ・マハルディカ)だった。
ラキブは彼の家に行き、「謝れば許してくれる」と嫌がる彼を説得して屋敷に連れ帰るのだが、思いもよらない事態が起こり、ラキブの信念が揺らいでいく…。
アジコのおすすめポイント:
熱帯雨林の国、インドネシアの田舎町で起こる、軍人あがりの政治家とその屋敷に仕える青年との選挙をめぐる事件とその顛末を描いたミステリアスな衝撃作です。監督はインドネシアの新鋭マクバル・ムバラク。本作で長編デビューし、昨年の東京フィルメックスで見事グランプリを受賞。そのほか、数々の賞に輝いています。軍事独裁政権時代に生まれ育った監督が描くのは、体制が変わっても今なお続いている権力構造。常に父親的存在が求められ、善悪の区別が不明瞭になっている社会。地方社会ゆえにその傾向は色濃く、歪んだ人間関係と愛憎が、欺かれた青年の純粋さと正義感に火を点けていきます。これは監督の眼でインドネシアという国を描いた自叙伝なのです。恐ろしいテーマを描きつつも、陰影の濃い映像は美しく、監督のセンスが光っています。二面性を持つ元将軍を演じたアルスウェンディ・ベニン・スワラの存在感も圧巻です。
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