story
インドには紀元前から続くカースト制度があり、人々を4つの階層に分けた。不可触民と呼ばれるダリトはその階層外にある。現在の憲法はカーストに基づく差別を禁止しているが、その習慣は根強く、とりわけダリト女性への暴行や殺人事件は今も続いている。
2002年、そのダリト女性たちによって、ウッタル・プラデーシュ州で創刊されたのが地方新聞「カバル・ラハリヤ(Khabar Lahariya)」だ。創刊時は冷ややかな目で見られていた彼女たちの新聞は、次々と革命を起こしていく。
2016年、主任記者のミーラは4人のレイプ犯に何度も襲われている女性を取材。夫は警察に5度も被害届を出しているが受理されず、ラハリヤ紙だけが唯一の希望と嘆く。ミーラは警察にも出向いて取材する。「ジャーナリズムは民主主義の基本」と話すミーラは、使命感を持ってその力を使う。
ミーラは14歳で結婚したが、婚家の親に理解があり、勉強を続けることができた。12年生の時に上の娘が生まれたが、祖母が面倒をみてくれ、働きながら政治学や教育学も学んだ。最初、夫のジヴバランは反対していたが、今は「いつまで続くか」と心配しながら見守っている。
創刊15年を前に、カバル・ラハリヤはニュースがより多くの人に届くようウェブサイトによる動画配信を計画する。チーム長になったミーラは、28人の記者たちにスマホを配り、デジタル化の重要性と使い方を説明する。
記者たちが現地取材して配信した記事は10万回以上も再生され、行政を動かした。医療、道路、水など、多くの問題が改善されていった。有望記者のスニータは故郷の違法採掘問題を取材。住人たちを脅すマフィアを相手に闘っていく。彼女が配信したニュースは各メディアが取り上げ、100万回以上の再生数に上った。
新人のシャームカリは初めてのスマホに戸惑い、英語もわからず苦労したが、ミーラが英語教室を開いて指導。成長していく。2人の子どもを持つ彼女は教育の重要性を訴える。反対する夫が暴力をふるうと、家庭内暴力の届けも出した。夫は捨てても仕事は捨てないと笑うシャームカリにとって、勇気は自分の心なのだ。
共に活動するミーラの長年の友人カヴィタは、次の試みとして「カヴィタ・ショー」を配信していく。スニータも上級記者となり、彼女のニュース番組は200万回以上の再生数を記録。選挙や政治問題、そして有名女性記者の殺人事件を取材したニュースは1億5千万回まで再生数が伸びた。彼女たちは、命がけで取材を続けている。
アジコのおすすめポイント:
インドで唯一、女性たちが立ち上げた新聞「カバル・ラハリヤ(ニュースの波)」の女性記者たちに密着し、動画配信を始めた2016年からの5年間を追ったドキュメンタリーです。しかも、彼女たちはダリトと呼ばれるカースト階級外の最下層民。憲法で差別は禁止されていても、インド社会では未だに根強い差別が残っており、特にダリト女性たちは未婚・既婚・年齢に関わらず性暴力の対象となり、時には殺されることもあるとか。本作でも冒頭から、主任記者ミーラによる取材で明らかにされていきます。主な登場人物はこのミーラとエース記者のスニータ、新人のシャームカリ。それぞれの家にもカメラが入り込み、彼女たちの家族や家庭生活、置かれた状況も映し出されます。彼女たちが追うのは、大手メディアが目を向けないような、地方の生活に密着した問題。警察が無視してきたダリト女性への性暴力、村はずれのトイレ問題、水や干ばつ、道路といった社会的インフラの不整備。スマホで取材し、配信したニュースは社会を動かし、問題が徐々に改善されていきます。故郷の違法採掘による被害とマフィアや政治家の癒着に切り込んだスニータのニュースは広く取り上げられ、再生回数も飛躍的に伸びていきます。
このダリト女性たちが巻き起こした奇跡を共同で記録したのは、リントゥ・トーマスとスシュミト・ゴーシュ。2人が立ち上げた Black Ticket Films による初の長編ドキュメンタリーで、多数の最優秀ドキュメンタリー賞の他、数々の賞を受賞しました。着実な実績を残し、中立な立場と丹念な取材で信頼を勝ち取ってきた「カバル・ラハリヤ」の奇跡は、今も拡大中。ダリト女性たちが力を持って社会を変えていく。これはまさに革命で、差別社会への挑戦なのです。
*カバル・ラハリヤ公式サイト|英語サイト
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