交通事故の加害者と被害者の家族を巡る人間ドラマです。聖書からの引用文をタイトルに4つの章で構成されており、珍しいフィリピンの郷土料理など、大邸宅でのお料理のシーンや宴会場面がふんだんに盛り込まれています。そこだけ見れば『ポトフ 美食家と料理人』のようなグルメ映画にも似ているのですが、父親に罪を着せてしまった息子の後悔と悲しみが根底にあり、加害者の家で働くことになった被害者家族の心はどうなのか?そこがサスペンスになっております。アジコなんぞは最初にこの作品のポスターを観た時、あの『パラサイト 半地下の家族』を思い浮かべてしまったのですが…まったく違う作品でした。いい意味で裏切られたというか、この結末に安堵しました。戦争や争いが絶えない今だからこそ、人間にとって大事な何かを考えさせる作品になっているのではないでしょうか。監督はフィリピン映画界の巨匠ブリランテ・メンドーサ。主演はドラマで大人気を博したココ・マーティンですが、家族を守る二人の女性、『ローサは密告された』のジャクリン・ホセと被害者側の母を演じるグラディス・レイエスがとてもいいのです。香港国際映画祭と中国のヘブン・ピクチャーズによる「B2B」プロジェクト作品なので、香港が製作となっていますが、中身は純然たるフィリピン映画。メンドーサ監督らしいドキュメンタリータッチも生きています。