story
中国と北朝鮮との国境の都市、延吉。北緯42度50分の街では、凍りついた大河(豆満江)から氷を切り出す。観光客も多く、ナナ(チョウ・ドンユイ)は観光バスで楽しげにガイドをしている。だが、それはあくまで仕事。ほんとうの自分は眠ったままだ。
都会で働くハオフォン(リウ・ハオラン)は友人の結婚式に出席するため、冬の延吉を訪れた。幸せそうな新郎新婦や近況報告に夢中の友人たち。北朝鮮との国境があるこの町には、朝鮮族も多く暮らしている。結婚式は朝鮮式だった。祝いの踊りに加わるハオフォン。だが、彼の心は沈んでいる。2次会の誘いを断り、一人ホテルに帰る。
仕事に追われる日々でストレスに耐えられなくなった彼は、カウンセリングを受けていた。煙草を吸うため非常階段に出たハオフォンは、階段から身を乗り出してみる。地上では仕事を終えたナナがバスを降り、煙草を吸っていた。翌朝のフライトまで予定のないハオフォンは、観光ツアーに参加する。だがスマホを紛失してしまい、ナナがお詫びにとハオフォンを夜の延吉に連れ出した。
男友達のシャオ(チュー・チューシャオ)も合流し、料理人でもあるシャオは土地の料理をふるまってくれた。飲み会は盛り上がり、皆でナナの部屋になだれ込み朝まで飲み明かす。翌朝。寝過ごしたハオフォンは上海に戻るフライトを逃し、途方に暮れた。シャオの提案で3人はバイクに乗り込み、国境クルージングに出かける。
冬の雪山と澄み切った空に息を呑み、凍りついた川の向こうに広がる隣の国を眺める。ハオフォンは上海のエリート金融マンだが、心を壊している。ナナはオリンピックへの夢を絶たれたフィギュアスケーターだ。勉強が苦手なシャオは故郷を飛び出し、親戚の食堂で働いている。行き止まりの街で出会った3人は、過去も未来も忘れて極寒の延吉をクルーズするうちに絆を深めていった…。
アジコのおすすめポイント:
中国の東北部にある北朝鮮との国境の街、延吉を舞台に、それぞれに傷ついた若者たちが引かれ合うように出会い、数日間を過ごす中で自分自身を見つめ直し、それぞれの明日へ向かっていく清々しい青春ドラマです。監督はシンガポール出身のアンソニー・チェン。2013年の『イロイロ ぬくもりの記憶』では、フィリピン人メイドと小学生の少年との心の交流を繊細に描いていましたが、本作でも彼ならではの視点で現代中国の若者像を鮮やかに描き出しています。興味深いのは、脚本がないまま、冬に未知の土地で決められた撮影期間に映画を撮るプロジェクトだったこと。監督にとってはコロナ禍で映画を作れないジレンマから湧き起こった挑戦だったわけですが、半ば即興と直感で紡がれた本作は若者らしい疾走感に溢れ、ファンタジックな映像も交えながら孤独な3人の交流を温かい目で見つめています。初めての中国語作品となった本作は、監督にとって「中国の若者たちへ贈るラブレター」。様々な理由から、厳しい競争社会の中で傷ついてきた3人の姿は、中国のみならず世界にも通じるもの。語り過ぎず、映像と場面転換でじっくりと描かれていく3人の心の動き。鮮やかなネオンが印象的なディスコや、真夜中の動物園、書店での競争、水墨画のような雪山に現れた巨大なクマ…3人でなければ起こり得なかった体験が、彼らの心を解かしていきます。主演は今や演技派女優のチョウ・ドンユイに、人気絶頂のリウ・ハオラン、ちょっとエディソン・チャンにも似たチュー・チューシャオ。3人の魅力が生かされ、みずみずしく輝くクリスタルのような作品に仕上がっています。ぜひ、スクリーンでじっくりと味わってください。
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