documentary
岐阜県にある白川町黒川。黒川開拓団は、この小さな農村地帯から新天地を求めて満州国に渡った満蒙開拓団だ。佐藤ハルエ、安江善子を含む650人余りの人々が海を渡り、その国で5年間生活を送った。
1932年、満州事変で日本の関東軍が満州全域を収め、満州国が建国される。満蒙開拓団は国策として、ソ連防衛の前線に送り込まれる。だが、1945年8月6日、広島に原爆が落とされ、3日後にはソ連が中立条約を破棄して日本に宣戦布告。満州国へソ連が侵攻する。
関東軍は開拓団に知らせることなく後退。成年男子は徴兵されていたため、開拓団に残されていたのは女性、子ども、高齢者がほとんどだった。ソ連兵と現地の人々からの襲撃を恐れた黒川開拓団は、逃避行の果てにソ連軍に助けを求める。護衛の代償は15人の未婚女性による性接待だった。
敗戦から1年、黒川開拓団も帰国する。だが、帰国した女性たちは差別と偏見の目にさらされ、故郷を離れる。口をつぐみ、犠牲となった女性たちの集まりで涙を流した。そして2013年、満蒙開拓記念会館での講演会で、佐藤ハルエと安江善子が性暴力にあったことを告白する。
彼女たちの勇気ある告白に、世代を超えて女性たちが連帯した。彼女たちの犠牲を史実として残す。戦後70余年、黒川の鎮守の森に碑文が建てられ、その歴史が刻まれることになった。
女性たちにも変化が生じる。トラウマに苦しみ続けた安江玲子のもとには、孫からのやさしい手紙が届いた。水野たづはカメラの前で実名で話せるようになった。人間としての尊厳の回復。そこに至るまで80年もの時間がかかった。
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