Q:監督の指導方法で、独特だなと感じたことは?
忽那「うとにかく、現場ですべて物事が決まっていきますし、役名もその場で決まるんですね。ただ、そこを恐れないというか、そこからすべてが広がって行くんです。多分、記憶が正しければ、初日は1日早く始まったと思うんですが、場所もロケハンも皆で周りながら、その時に一番いい場所、光のきれいな場所、そこで撮影が始まっていく。スタッフさんも皆一緒に動いて行く。その感じがとても印象に残っています」
Q:台本を作らない理由は?
監督「少しだけ言い訳をしますと、脚本はありますし、自分では一応、完全な脚本を持っていると思っていました(笑)。ただ、僕はいつも撮影する時に、その場でいろんなことを考えてしまい、いろんなことを調整したくなるので、急に撮影内容が変わることがあります。今回、それがある意味よくなかったのは、現代ものでなく時代劇だったこと。いきなり変えると、皆が困るのはわかっていたのですが、なかなか癖が抜けなくて(笑)。もちろん、それでも役者さんは僕と一緒に付き合ってくださって、そんな中でずっと映画を撮ってきました。僕はどうしても、最初に全部脚本通りにお膳立てしたまま撮ることができないんですね。それは自覚しています(笑)」
Q:アクションシーンが独創的で、ワイヤーワークなど多くの人が予想するものとは違っていますが、心配された部分はありましたか? また、撮影に5年かかったそうですが、どういう点に一番時間をかけたのですか?
監督「私にとっては現場がすべてです。どんなに役者のことを理解していたとしても、どんなに長く準備していたとしても、現場でこれは違うと感じたら180度変えてしまいます。現場での判断がすべてなのです。もう1つ、次の問題は編集の時にやって来ます。これはだめだ、これはだめだ…と捨てて行くと、今度はつながるかどうかという問題が出てきます。つながらなくなるなあと思っても、それをなんとかする術を僕は持っていて、多分いろんなところが、自分で最初に考えていたより欠けているのですが、ストーリー的に欠けているものは、何らかの形で補っているつもりです。
今回に限らず、時間をかけたとかけないとか、アクションだったとかそういうことは別として、自分の作品は脚本のままに撮れたことが今まで一度もありません。僕の映画作りはいつも、多分こういうシチュエーション、こういう状況だなという状況作りをすることで、今、皆さんが観てくれたヴァージョンができているのだと思います。中には、意味がわからないとか、ちょっと飛んでるなと思われる方もあると思いますが、僕の中でOKされたものがこの作品なのです。答えがずれてますけど、すみません(笑)」
Q:中華圏の監督さんたち、特に人間ドラマで定評のある方々は、ある時期になると皆さん武侠ものを撮っていらっしゃいます。これまでの作品とどう変わるか、と思っていましたが、実際に観てみるとやはりホウ監督の映画になっていました。久々の新作で、武侠ものを撮りたいと思われた理由は?
監督「今回、撮影にこんなに時間がかかってしまった一番の大きな理由は、8年のうちの3年は台北市の映画祭(台北電影節)の仕事をし、5年は台湾金馬奨の仕事をしていたからです。その8年の間に、中国の映画市場も大きく変わり、ものすごく巨大なマーケットになりました。そういう状況の中、台湾で映画を作る人間はどうやって生きていくかということに直面しました。しかし、中国と一緒にやる仕事もあったので、居場所に関係なく撮れる共通の素材が歴史物だったのです。もう1つ、自分が唐の時代のものを昔から撮ってみたかった、というのもあります。
先きほどの話と関係しますが、どんなに準備しようがしまいが、最終的には撮影時に、直感でいろんなことを決めてきました。今回は、44万フィートという非常にたくさんのフィルムを回していますが、相当な部分を切りました。それも、結局は自分の判断だったと思います。
僕はこれはダメだと思ったものは全部切ってしまいます。今よりもっとストーリーがつながらなくても、切っていたことでしょう。そして最終的にどんなものが残り、どんなものを素材にやっていかなくてはならないか、そこから僕たちは逃げられないので、それだけはちゃんと向き合ってこの作品を作ってきたつもりです。
台湾は人口が少なく、マーケットとしては小さい。これは、台湾で映画監督をする上で、必ず向き合わなくてはならないし、必ずストレスになります。そして、矛盾するようですが、武侠ものを作るには大変お金がかかります。もし売れなければ、次の資金が探せなくなるという問題が必ず出て来ます。この映画を中国の方が受け入れてくれるかどうかはわかりませんが、もし受け入れてくれるとしたら、台湾に住む僕らよりもっと下の世代、もっと若い人たちが、台湾に住んで映画を作って生きて行く上で、1つの道が開けることになるので、そうなればいいなと思っています」
司会「では最後に、メッセージをお願いします」
忽那「今回は、ほんとうにまっさらな状態でこの作品を観ることができました。ほんとうに新しい感覚を味わえて、とても静かで、無駄のない中にも研ぎすまされた芯の強いメッセージがあって、今の時代の多くの日本の方に、この作品を少しでも理解してもらえたらうれしいなって、すごく心から思っています」
監督「今回の作品はぜひ、急がずにゆっくり観ていただけたらと思います。味わっていただけると信じています。この作品はとても個人的な作品かもしれません。僕がとても執着した、必要だと思ったものだけを残した語り方になっています。でも、そういう中で、もし何回も観ていただいたり、忍耐力を持ってゆっくり観ていただければ、きっと理解してもらえると信じています。ありがとうございます」
会見で何度も語られているように、『黒衣の刺客』はホウ監督がチョイスしたイメージで綴られる作品ですが、決して難解でも、退屈でもありません。むしろ、端正な絵画や絵巻物を観賞するような快感を覚えることでしょう。展開に多少のジャンプや省略はあるものの、想像力を働かせることで、ストーリーもつながっていますし、それぞれのキャラクターの行動や感情の流れも理解できます。結末も希望のあるものになっています。監督がメッセージで伝えているように、日本でのロケも交えた美しい映像をじっくりと堪能しながら、スクリーンで展開する世界全体を味わってください。
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