左よりホウ・シャオシェン監督、忽那汐里
2015.8.3 松竹本社
9月12日より絶賛公開中の『黒衣の刺客』。台湾の巨匠ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督が8年ぶりに手がけた新作で、初めての武侠映画に挑戦しています。本作は今年のカンヌ国際映画祭で監督賞とサウンドトラック賞をダブル受賞。日本からも妻夫木聡と忽那汐里が出演しており、なにかと話題の多い作品です。そんなホウ・シャオシェン監督が、日本公開前の8月初旬にプロモーションで来日。出演者の忽那汐里もゲストで登場し、配給元の松竹本社にて記者会見が開かれましたので、ご紹介します。
会見場に現れた監督は、ここ数年の審査員や映画賞で来日した時よりも、いく分若返った印象。受賞のお祝いの言葉に「ハイ。ドウモ(笑)」と日本語を交えながら、にこやか、かつ情熱的に作品のことを話す監督は、とても楽しそうに見えました。通訳は、本作の字幕も担当した小坂史子さん。会見の冒頭で、「作品の完成が待ち遠しかった」という忽那汐里さんより花束贈呈が行われました。まずは、司会による代表質問から。
司会「カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したお気持ちは?」
監督「うれしかったですね(笑)。8年も映画を撮っていなかったので。カンヌには何度も参加していますが、今回は武侠ものだったので、あちらの観客の皆さんがどんな反応をするのかわかりませんでした。ただ、皆さんが僕のことを覚えていてくれて、そんな中で受賞できたことがとてもうれしかったです」
司会「ホウ監督の作品に初めて参加されて、いかがでしたか?」
忽那「とにかく光栄という気持ちが一番です。初めて監督とお会いしたのは5年前。上野の小さな喫茶店のような所でした。作品に関する具体的な知識はまるでなかったのですが、監督の作品に参加したいという思いだけでお会いしました。それが実現して役をいただき、監督のチームの皆さんとお仕事をすることができて、ほんとうにいい経験をさせていただきました」
司会「忽那さんと初めてお会いになった時の印象、キャスティングの決め手となった部分は?」
監督「最初に何を話したかは覚えていませんが、とても賢い方だなと思ったのは覚えています。その時は『鏡磨きの青年の回想シーンで、奥さんが出て来るんですよ』と、このシーンの説明をしました。すると『回想シーンだから、ご本人はいらっしゃらないんですね』と言われて、その通りだなと。そこで『君の言う通りだけれども、映画の中はすべてが合理的ではないから、二人でのショットも入っていると思うよ』と話しました。
彼女がふさわしいと思ったのは、とても理解力があるから。『回想シーンというのは自分の意識の中のことだから自分はあるけど、鏡みたいにして見ないと自分自身、つまり妻夫木さんの存在は見えないでしょう?』と説明しました。ただ、あんなに若い時にこんな質問をしてきた彼女は、とても優秀だと思いましたね。一緒にお仕事をさせていただいて、とても楽しかった。撮影はあっという間に終わりましたが、今こうして5年後に再会して、ちょっとびっくりしてます。すっかり大きくなって、綺麗になった。まるで、オードリー・ヘプバーンみたいだ(笑)」
と、目を細めるホウ監督。控室で再会された時から驚かれていたそうです。
司会「妻夫木聡さんをキャスティングされた理由は?」
監督「この役は妻夫木さんしか考えていませんでした。スー・チーが演じるヒロインは刺客で、他人を簡単に信じるような人生は送っていません。そういう人間の気持ちを溶かしたり、情緒を動かしたりできるのは、ただ単に明るくて太陽の日差しのように温かい人、というだけではなく、とても感情の深い人がいいと思ったのです。浅野忠信さんとお話したこともありましたが、この映画のスー・チーの心を溶かすのは、多分、浅野さんではなくて妻夫木さんだろうと僕は思いました」
ここからは、集まった記者による質疑応答です。
Q:初の武侠映画ですが、今回、一番こだわった点は?
監督「役者ですね。役者が一番大事。どんな映画でも同じだと思いますが、一番最初にくる絶対条件は出演者。出演者がどういう方で違ってきます。その方たちがいない限り、僕は次の展開へと進めません。監督が役者やキャラクターのことを理解できていないと、映画は終わりです。撮影時にその俳優が売れているか否かではなく、自分が想像している役柄が、今回出演してくださる方の理にかなっているか、ふさわしいかが大事。出演者の方々の感情やコンディションを調整していくのが、僕の仕事だと思っています」
Q:忽那さんは、現場で一番印象的だったことは?
忽那「外国の監督とお仕事を経験させていただいたのは、多分これが初めてです。同じアジアとはいえ、文化の違いがたくさんあって、今回は台本をいただいていませんでした。でも、日本人の青年の中で強く印象に残っている回想シーンなので、本人が思い返すほど二人にとって強いものがあるんだろうなあというのを頼りに、毎日撮影していました。台本がないので、アドリブが多い中で、監督は常に横で、具体的な動きや仕種、感じている役柄の状況を教えてくださいました。また、作品を撮る少し前に、妻夫木さんとは別の作品でご一緒していたのですが、ほんとうに慣れていらっしゃって、毎日、流動的な現場で引っ張ってくださったのが、とても大きかったです。現場の方に助けていただきながらの日々でした」
Q:日本人キャストへの演技指導で心がけていたことは?
監督「特に難しかったことはありません。妻夫木さんが演じる鏡磨きの青年ですが、私が劇中で設定していたのは、お父さんが遣唐使船に乗って大陸に渡った鋳物師だったということ。船が難破したので修理をし、その修理を終えた時に父親が怪我をしてしまった。そこで父親の代わりに遣唐使船に乗ったという設定でした。その時には、忽那さんが演じる新妻がすでにいた、という背景もありました。ということで本来、日本人の役なので、日本人だからというプレッシャーや違和感はまったく持っていませんでした。
もう1つ、船が破水して中国に流れ着いたという背景があるので、妻夫木さんが中国語を話す場面も一応撮影しましたが、それ自体は大事なことではありません。うちのスタッフは皆、とても妻夫木さんが好きで人気者でした。彼は見るからに『あ、この人は最初から人を助けようとする人だな』と。そういう役に向いている人だと思いました。そこで、ヒロインのインニャンのお父さんが襲われているところを助けるという役を考えたのです」
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