資料には400回と書いてあります。
監督「そうですね。だから、4日間で撮り終えたんです(笑)。ただ手を差し伸べるだけではなくて、ゆっくりと恐怖をいっぱい感じて欲しかったので。それから、彼女は幸せな家庭で育っているので、両親を失くすという感覚がわかりません。私は10年前に母を失くしたので、自分の経験を話して聞かせなくてはなりませんでした。だから、いつもかなりつらかったのです。このシークエンスを見るたびに、彼女に母の話をしたことを思い出すし、母との思い出がよみがえるので」
ハンナ「わたしにとって一番思い出に残っているのは、一番最後のシーンですね。卒園式でたった一人の園児カカが卒園します。このシーンを監督は長回しで、1テイクで撮ると言い出したんです。そこで、わたしはカカと、スピーチをする時のディテール、感情がどういう風に変わっていくかを復習しながら、長い時間をかけて準備しました。監督はこのシーンを演技でなく、純粋に心が溢れ出る場面として撮りたがっていました。だから、1テイクで撮ることにしたんです。そこで私はカカに説明しなくてはなりませんでした。彼女はとても注意深い子どもで、タイミングや感情が切り替わる流れなどをよく理解していました。これはほんとうに大きなチャレンジでしたね。私だけでなく、クルーのみんなにとっても」
ルイスを納得させた涙と情熱
Q:子どもたちだけでなく、主人公を演じた大人のお二人には、キャラクターを作るにあたりどのように話されたのですか?
監督「涙ですね(笑)。ルイスと最初に会った時ですが、彼の素敵なオフィスで30分ほど物語を話して聞かせました。後で彼に電話したら、最初の5分しかわからなかったと言うんです。残りの25分は何を言っているか聞き取れなかったと。僕が泣いてたからなんですね。そして、監督が自分でこんなに感動してるんだから、きっといい映画になるだろうと言ってくれました。だから、彼からは何の質問もなく終わったんです(笑)情熱は大事です」
ハンナ「ルイス・クーさんからはいつも応援の言葉をもらっています。香港社会には今、こういう映画が必要なんだと。これまで長い間、こういうタイプの映画は作られて来なかったので。多くの人たちがこの映画を見て泣きました。これは感動の涙で、人間にとって重要なものです。涙を流すことで、自分の中には他人に対する愛情や共感する感情があるんだと思い起こさせてくれますから」
Q:ルイス・クーはノーギャラで、出資もしたそうですね。
監督「彼も投資者の一人です。報酬がいくらだったかは知りませんが、おそらくそれ以上の出資をしてくれているでしょう。とても感謝しています」
Q:この作品はアクション映画ではないので、日本人の香港映画へのイメージを変えるのではないかと思うのですが、香港で著名な俳優さんが出演しており、彼らにとっても初めてのチャレンジではないかと思います。日本の観客にはどういう魅力を感じてもらいたいですか?
監督「ただ、泣いてください(笑)。楽しんでもらえればと思います。僕たちの心や情熱を感じて、楽しんでください。この映画に込めた情熱を感じたら、それを誰かに伝えてください。それが僕の望みで、分かち合いことです」
監督にとって辛い思い出となったチュチュの名シーンは400回も撮影!
(c)2015 Universe Entertainment Limited
クリスチャンとしての思い
Q:ゴスペル監督とも呼ばれているそうですが、クリスチャンとしてこの映画に込めた思いや人々に伝えたいことがあれば、教えてください。
監督「クリスチャンになったのは7歳の頃です。幼い頃は祖父に育てられ、太陽が昇ったり沈んだりするのを一緒に見るのが好きでした。天にはこんな素敵なものを創った偉大な父がいるんだなあと思ったものです。その後、姉と教会へ行くと、天にはこの世界を創り出し、私たちをとても愛してくれている神様がいると、神父さんが話していました。それで、僕が探していたのはその人だったのかと。子どもの頃から映画監督にもなりたいと思っていました。ウルトラマンが大好きだったんです。それで、映画の勉強をし、神様に『あなたのために映画を作りたい』と祈りました。これまでの道のりでは、いつも神を感じていました。困難ではあったけれど、その価値はありました」
ハンナ「監督と私は、いわゆるゴスペルムービーと言われるジャンルで10年以上一緒に仕事をしてきました。なぜ、今回は商業映画を撮ったかというと、より多くの人々に愛や希望といったメッセージを感じ取ってほしいからです。商業映画ですが、中心にあるメッセージは愛や、どんな状況にあってもお互いに助け合って諦めないでということ。実際の園長はクリスチャンではありませんが、彼女の愛は言葉だけでなく、実際に子どもたちといようと行動を起こしました」
監督「愛は世界でも普遍的なもの。どんな民族でも、どんな時代でも、愛や情熱を求めているし、どんなに状況が変わっても、心の深いところで愛を求めているのです」
ハンナ「私たちが思っている愛は、クリスチャンだけでなくもっと広く外へ広げていくべきものなんです」
新しい流れをめざして
Q:昔はピーター・チャン監督のように香港の市井の人たちを描いた人情コメディなどがあり、香港の人々のことがよくわかったのですが、最近はアクション映画や大作が多くなってしまいました。この作品の登場はうれしかったのですが、今後もこのような映画を作っていきますか?
監督「もちろん。この作品の成功は僕にやり続ける勇気を与えてくれました。このようなドラマは香港ではメインストリームではないけど、人と違うことをするのは大事ですよね。実はこの映画のおかげで、このような流れの新作を2週間後に撮り始める予定なんです」
ぜひ、このストリームを作ってください。
監督「ありがとうございます。そうします」
Q:最後のシーンで、子どもたちの両親の夢がかなった場面が出てきますが、これは監督のアイデアですか? 信じれば夢はかなうということを託したかったのでしょうか?
監督「夢を信じることは力になります。夢には力があるということを、この映画全体に通じるメインメッセージとして描いています。夢を見ることはその人に翼をもたらしてくれる。その翼を使って空高く飛ぶことで、行き止まりではなく、その先の世界へ続く道が見えるんです」
ありがとうございました。
愛や夢を語るお二人からは、この映画に込めた情熱が伝わってきました。この作品の成功によって、さらに新たな翼を得た監督たちの次なる作品が楽しみです。『小さな園の大きな奇跡』の上映は、東京では12月下旬まで。さらにその後も、日本各地で順次上映されます。未見の方はぜひ、この夢を諦めなかった夫婦と5人の子どもたちに会いに、劇場へおでかけください。
(2016年10月6日 武蔵野エンタテインメント本社にて3媒体合同取材)