台湾アイデンティティー(Taiwan Identity)
story
1932年に阿里山の麓で生まれた高菊花さんは、ツオウ族リーダーだった父を持つ。音楽を愛し、厳格な教師となった父の元で育つが、父は戦後の白色テロの犠牲に。自身も執拗に尋問されるが、母と9人の兄弟姉妹を養うため歌手となって活躍し、家族を支える。
1927年生れの鄭茂李さんは高菊花さんの大叔父。18歳で海軍に志願し、高雄で敗戦を迎えた。二二八事件に参加するが、逮捕は免れ、阿里山で原住民族初の茶栽培に成功。日本を何度も訪れている。
1923年生まれの黄茂己さんは、旧制中学卒業後、台湾少年工として神奈川県の海軍に赴任。当時、知り合った妻と日本で結婚し、台湾帰国後は教師として定年まで勤めた。
1927年生まれの呉正男さんは横浜在住。東京の中学に在学中、陸軍に志願。北朝鮮で敗戦を迎え捕虜となった後、日本に戻る。社会情勢の悪化で台湾への帰国を断念し、日本の大学へ進学。銀行に勤め日本人と結婚、家庭を持つ。
1922年に台湾で生まれたウマル・ハルトノさんは、18歳で志願兵となり、戦場を転々とするが、インドネシアで敗戦を迎え、残留。独立戦争にも参加した後、インドネシア籍を取得。日系企業に就職し残留日本兵の墓を弔う。
1930年に生まれた張幹男さんは台湾人の父と日本人の母を持つ。敗戦後、「反乱罪」で逮捕され、8年間を収容所で過ごす。出所後、日本語ガイドを経て旅行会社を設立。150人規模の会社に成長し、今は会長を務める。
●アジコのおすすめポイント:
『台湾人生』に続く、酒井充子監督のドキュメンタリー作品です。日本統治下時代に日本人として教育を受け、敗戦と同時に台湾へ渡って来た国民党によって中国人として生きることを強いられ、2つ、あるいは3つの民族としてのアイデンティティの中で揺れ動く人々の人生に寄り添う証言集。印象的なのは、皆が「生まれた時代がわるかった」と言っていること。1992年、李登輝政権下で民主化が本格化し、言論の自由が認められたことで、やっと聞こえてきた人々の複雑な思いを知ることができる、貴重なドキュメンタリーです。
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