ヨーヨー・マと旅するシルクロード
(The Music of Strangers)
story
2000年、ヨーヨー・マはシルクロードの各地から50名以上の各分野のマエストロたちをマサチューセッツ州のタングルウッドに召集。即興などのコラボレーションを行った後、16曲の新曲を観客の前で披露し、10日間のワークショップを終えた。この前代未聞の集まりはシルクロード・アンサンブルとして継続され、進化し続けている。
パリで生まれ、4歳の時からチェロを習い始めたヨーヨー・マは、6歳でリサイタルを開いた。その後、一家は新たな可能性を求めてアメリカへ移住。7歳にしてテレビに出演し、チェロの神童としてもてはやされた。そのまま、迷うことなくチェロ奏者になった彼には、「自分とは何なのか?」という問いかけが常にあった。
ハーバード大学でリベラルアートと人類学を学び、カラハリ砂漠を訪れてブッシュマンの音楽を学んだこともあるヨーヨー・マは、ヨルダンのペトラ遺跡や正倉院に残る文物に触発され、様々なアーティストや音楽が行き交ったシルクロードへと関心を深めていく。それは中国という自身のルーツをたどる旅でもある。
アンサンブルに集まったアーティストには様々な背景があった。ケマンチェの名手ケイハン・カルホールは、17歳の時に故郷イランを去って苦労を重ね、いったんテヘランへ戻って結婚するが、再び国を追われている。革新的な琵琶奏者のウー・マンは可能性を求めて中国を去るが、今は伝統音楽復活のため、2つの文化を行き来している。
シリア内戦で国を追われたキナン・アズメは、難民キャンプの子どもたちに音楽のワークショップを開く。スペインのガリシア地方に伝わるガイタ(バグパイプ)奏者のクリスティーナ・パトは、故郷の文化を残すため、シルクロード・アンサンブルでの経験を再現。それぞれが、芸術や音楽の役割を見出していく。
アジコのおすすめポイント:
世界的なチェリスト、ヨーヨー・マが始めた「シルクロード・アンサンブル」を紹介するドキュメンタリーです。ヨーヨー・マといえば、つい『マクダル パイナップルパン王子』を思い出してしまうアジコですが、本作を観るとヨーヨー・マの神童と言われた幼少期から少年時代、世界で活躍するチェリストになってからの悩みがよくわかります。音楽や芸術の役割を見出すことは、自分自身の存在意義を見つけることになる。自身のルーツにもつながるシルクロードを起点に、そこに伝わる音楽の多様性や融合を実験し、新たな音楽や文化を生み出していくのがシルクロード・プロジェクト。チェロをギターのようにかき鳴らしたり、ベースのように弾いたり。参加したアーチストたちも、自分たちの楽器を駆使してとても楽しそうに演奏しています。多様な世界から集まった人たち、それぞれが背負う社会的な問題も浮き彫りになり、このプロジェクトが彼らにとっても新たな可能性を広げてくれているのです。監督は『バックコーラスの歌姫たち』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞しているモーガン・ネヴィル。見応えあります。
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