ソン・ランの響き(Song Lang/The Tap Box)
story
1980年代のサイゴン(今のホーチミン市)。大衆歌舞劇カイルオンの劇場では、旅回りの一座が悲恋ものの人気演目「ミー・チャウとチョン・トゥイー」を演じている。チョン・トゥイーを演じるのは看板俳優のリン・フン(アイザック)だが、彼にはまだ恋愛経験がなかった。
その頃、ユン(リエン・ビン・ファット)は高利貸しの手先となって借金の取り立てで暮らしていた。情け容赦のない取り立てから「雷ユン」と恐れられるほどだった。そのユンにカイルオン一座への取り立てが命じられる。入口の古いポスターを見つめるユン。彼の母親はかつて、カイルオンの看板女優だったが、政治的な理由で主演を下ろされたため家族を捨てて去っていた。
楽屋。借金の返済ができず懇願する団長の前で、ユンは衣装にガソリンをかけて火をつけようとしていた。そこへリン・フンが止めに入り、自分の腕時計を差し出す。「残りは後で払う」という彼に、ユンは腕時計を受け取らず無言で立ち去った。ユンの父親(スアン・ヒエップ)はカイルオンの奏者だった。幼い頃のユン(バオバオ)はカイルオンを観るのが大好きな少年だった。
タイ(トゥ・クエン)の家に取り立てに行ったユンは、留守番をしていた幼い娘たちと穏やかなひと時を過ごす。しかし、タイと妻が帰宅すると豹変し、暴力で返済を迫るのだった。その夜、リン・フンの舞台を観たユンは彼の美貌と歌声に魅せられる。翌朝、再びタイの家に行くと、タイの妻が娘たちを道連れに自殺を図っていた。病院で呆然となるタイを陰から見つめるユン。彼は深い後悔の念にかられていた。
ある日、町の食堂で食事をしていたリン・フンが酔っ払いにからまれ、殴り合いになる。たまたま居合わせたユンが加勢に入るが、リン・フンは殴られて昏倒しており、ユンの部屋で目覚めた。その夜を一緒に過ごすうちに、次第に打ち解けた二人は互いの生い立ちを語りあう…。
アジコのおすすめポイント:
ベトナムの大衆歌舞劇「カイルオン」を背景に描かれる、2人の青年のつかの間の出会いと別れを描いたせつない物語です。ソン・ランはベトナムの民族楽器。カイルオンの伴奏に使われ、ユンは父親が弾いていた弦楽器ダン・グエットを弾きながら、片足で小さな木鼓のソン・ランを踏み、かつて父が書いた詩を歌うリン・フンの伴奏をします。対照的な生き方をしてきた2人の青年が、カイルオンという共通点で響き合う、この美しいシーンは見逃せません。恋愛経験はないけど美しい役者のリン・フンとたまに寝るGFのいる野生的なユン。彼らの出会いは友情以上、恋愛未満という絶妙に純粋な状態に発展していくのですが、それだけに衝撃のラストは胸にぐっと刺さることでしょう。監督は本作が長編デビュー作となるレオン・レ。主人公をテレビの世界からオーディションで抜擢されたリエン・ビン・ファットと、アイドルグループ「365daband」で人気を博したアイザックが演じています。アジクロでは、公開直前に来日したレオン・レ監督とリエン・ビン・ファットに単独インタビューをすることができましたので、そちらも合わせてお楽しみください。
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