椿の庭(A Garden of Camellias)
story
葉山の海を見下ろす坂の上の古い家。庭はよく丹精されていて、四季折々の花が咲き続けるよう手入れされていた。そして、井戸の中には金魚がたゆたう。動かなくなった金魚は椿の花に包まれ、庭の片隅にそっと埋葬された。
その家の主、絹子(富司純子)の夫の四十九日法要が行われた。東京からやって来た娘の陶子(鈴木京香)は、老いた母が亡くなった姉の娘・渚(シム・ウンギョン)と二人でこの家に暮らし続けていることが気が気でない。一緒に暮らそうと勧めても、絹子は思い出深いこの家から離れるつもりはない、と言う。しかし、絹子は相続税の問題から、この家を手放すことを求められていた。
梅雨になり、渚は懐かしい母のアルバムを見つけ出す。駆け落ちして海を渡り、渚を身籠った母はもういない。「いつかこの家に帰ってくると思っていた」と絹子はアルバムを渚に託す。税理士の黄(チャン・チェン)が訪ねてきた。「この家の良さを生かしてくれる方がいると思います。探させてください」
夏になり、お盆に夫の友人の幸三(清水綋治)が訪れる。思い出話に花が咲き、絹子は当時の懐かしいレコードをかける。「記憶って、場所や物に宿っていて、ふと思い出すことってあるわよね。でも、私がこの家から離れてしまったら、全て思い出せなくなってしまうのかしら」絹子が倒れて、病院へ担ぎ込まれる。
絹子は大事には至らず、2階で静養している。黄が誠実そうな男、戸倉(田辺誠一)を内見に連れてきた。彼は手入れの行き届いた家を褒めちぎって帰る。やがて、秋の気配が訪れ、絹子は何かを決意したように家の中を片付けはじめた。
アジコのおすすめポイント:
家と記憶をテーマに、風情豊かな映像で家と家族を記録した動画アルバムのような作品です。15年前、近所にあった好感の持てる古い家が空き地になってしまい、不思議な喪失感を感じた写真家・上田義彦氏の思いが、美しい映画となって結実しました。初監督作品です。もちろん、フィルムで撮られています。主人公は家ですが、愛する夫との思い出が詰まった家で暮らす主を演じた富司純子さんの佇まいが素晴らしいのです。老いを隠さず、着物をきれいに着て、和食をきれいに食べて、花を愛でて、庭を掃除して…と、一つ一つの所作を見ているだけでもうっとり。そんな祖母と暮らす、韓国からやって来た孫娘役のシム・ウンギョンも自然に馴染んでおり、勝手ながら、この世界は壊したくないなあと思ってしまいます。(ロケで使われた家は今もあるそうです!)アジコが住んでいる吉祥寺界隈も大きな家が多いですが、古い家もあり、更地が多くなりました。人も家も、形あるものはいずれ壊れる。諸行無常だからなあ…とわかってはいても、よいものは残っていってほしい。2日から公開されている『ブータン 小さな教室』にも通じる思いがあります。
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