声もなく(声もなく/Voice of Silence)
story
耳は聞こえるが、口のきけないテイン(ユ・アイン)。幼い頃、拾って育ててくれたチャンボク(ユ・ジェミョン)とライトバンで卵を売って回る。金を貯めて自分のバンを買ったら独り立ちしたいと思う。一方、チャンボクは足が悪く、信心深いキリスト教徒でもある。
彼らには裏稼業があった。犯罪組織の下請けだ。廃工場で吊るされている男の下にビニールを敷く。汚れないように準備万端。組織の連中がやって来ると、外で待つ。終わったら掃除して、死体を山に埋めるのだ。多少、罪悪感は感じるが、殺したわけではない。あくまで仕事だ。
そんなある日、若いボスのヨンソク(イム・ガンソン)に1日だけ人を預かって欲しいと頼まれる。専門外だから断りたいが、断れない。出向いた先は保育園のような部屋。ウサギの面を被った少女が一人でいた。11歳のチョヒ(ムン・スンア)だ。息子と間違えて誘拐され、父親は身代金をしぶっているという。
チョヒは自分の状況を受け入れていた。その夜は、テインが預かることになる。彼の家はゴミ屋敷で、部屋には服が散乱。だが、7歳の幼い妹ムンジュ(イ・カユン)がいた。翌日、早くチョヒを手放したい二人に予想外の展開が起こる。ヨンソクが廃工場で吊るされて死んでいたのだ。共謀者たちはチャンボクをそそのかし、身代金要求を持ちかけてる。
交渉成立まで、チョヒはテインの家で過ごすことになるのだが、チョヒは片付けや洗濯をしてムンジュと仲良くなる。次第に家族のようになる4人。チョヒの親へ送る誘拐写真を撮影する時、笑顔になるほどだった。そして、身代金の受け渡しの日、またしても予想外の展開が待ち受ける…。
アジコのおすすめポイント:
善良な心を持ちながらも身体的ハンディのせいで小悪党として生きる二人が、想定外の誘拐事件に巻き込まれ、人生を狂わされていく異色クライムサスペンス。ヒューマンドラマの要素が強い作品です。80年代生まれの女性監督ホン・ウィジョンが脚本も担当した長編デビュー作で、数々の新人監督賞を受賞。人物造形や美術など緻密なこだわりの演出で、犯罪映画でありながらどこかのどかで温かく、そしてせつない傑作を生み出しました。表面だけではわからない日常の中に潜む善と悪が、生き延びるために何度も反転する様を皮肉を込めて描き出しています。主演は若手演技派スターのユ・アイン。がっしりした印象にするため、体重を15キロも増やし坊主頭で挑戦。初めてのセリフのない役柄を、表情と身体だけで表現しています。そして、相棒役はアジコの好きなパオ様(「花郎」)こと、悪党から善人までどんな役柄も演じ分けるユ・ジェミョン。(『ユンヒへ』に続いての登場!)実は一番こわいかもしれない誘拐された少女を演じたのは、オーディションで監督を驚かせたというムン・スンア。難しい役柄を見事に演じており、将来が楽しみです。さて、主人公の声なき叫びはどこまで届くのか? 観終わって、心の中がグルグルしてしまう本作をお見逃しなく!
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