story
若者たちが立ち上がった2014年、そして2019年。その後、激変する状況の中、香港という場所が辿ってきた歴史、過去と現在を通して、チャン・ジーウン監督は今あらたに香港人のアイデンティティを考察する…。
かつて、香港へ自由を求めてやってきた人々がいる。今もビクトリア・ハーバーで泳ぎ続ける74歳のチャン・ハックジー。彼は文化大革命の時代、当時の恋人(今の妻)と共に深圳から夜の海に入り、香港を目指した。荒れた海で力尽き、失くなる者も多かった。無事にたどり着いた知識青年たちは、香港の新移民となる。二人の物語を24歳のアンソンと22歳のシウイェンが演じる。
1967年5月、労働者による香港イギリス政府に対する大きな暴動が起こった。「香港六七暴動」と呼ばれ、親中派による大規模なデモだったが次第にエスカレート。一連の暴力行為が起こり、7ヶ月間で1936人が起訴、832人が負傷、51人が死亡する。16歳の時、共産主義寄りの文芸誌を配布したことで投獄されたセッ・チョンイン。獄中の彼を21歳のケルビンが演じ、71歳のセッ・チョンインと対話する。
現在54歳のラム・イウキョンは、1989年、学生の抗議運動を支援するため北京へ向かった。無傷で香港に戻ったが、民主化運動の惨状を目の当たりにし、その衝撃から完全に立ち直ることができなかった。23歳のキースが当時のラム・イウキョンを演じ、中国と香港の民主化に思いを馳せる。
アジコのおすすめポイント:
2014年の雨傘運動を検証するドキュメンタリー『乱世備忘 僕らの雨傘運動』を監督してデビューしたチャン・ジーウン監督が、日本を含む海外からの様々な資金協力やクラウドファンディングの元で、約5年越しに完成させた2作目の長編ドキュメンタリー作品です。そのテーマはずばり、香港人としてのアイデンティティ。2019年、逃亡犯条例改正案の完全撤回によって大きく膨れ上がった民主化への動きは、コロナ禍を経て、2020年夏に強行された香港国家安全維持法によって封じ込められ、今の香港は沈黙と憂鬱なムードに包まれています。しかし、歴史を紐解いてみると、香港に生きる人々にはそれぞれの時代に弾圧や葛藤があり、その中で生き抜いてきた人々なんですね。そのことを3つの歴史的エピソードの再現映像を交え、生き証人たちと現代の若者が対話し、それぞれの生き方を考えていく物語となっています。どんなことがあっても、自分が得た自由は守る。ビクトリア・ハーバーでの水泳を74歳になっても欠かさないチャン老人の姿に、その精神が集約されているようです。
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