story
トルコのカフェで働くザラ(ミナ・カヴァニ)。恋人のバクティアール(バクティアール・パンジェイ)がやって来て、やっと手に入れたフランス人のパスポートを見せる。自分は後から行くから、先にに行けと言うバクティアールに、一人で行くのは嫌と悲しむザラ。そこで「カット!」の声。
パナヒ監督(ジャファル・パナヒ)は、国境に近いイランの小さな村に滞在し、密かにリモート撮影をしている。カメラを回すのは助監督のレザ(レザ・ヘイダリ)だ。だが、電波状況がわるく中断。部屋を貸してくれている気のいい村の青年ガンバル(ヴァヒド・モバセリ)が、梯子を持ってきてくれたが、屋根の上も難しい。
し方なく、これから結婚するカップルの足洗いの儀式に行くというガンバルにビデオカメラを渡し、その儀式を撮影してきて欲しいと頼む。そして、自分もカメラを取り出し、のどかな村の景色や人々を撮影。ガンバルの母親(ナルジェス・デララム)が作る料理は美味しかった。
深夜、心配したレザが撮影したHDを持ってやって来る。車を出して、夜道で落ち合うと、レザは「このままトルコのロケ地に渡って撮影しましょう」と提案。密輸業者の手配なら安全だという。だが、国境近くまで行くと、パナヒは国外へ出ることを拒否する。帰り道、若い女性ゴザル(ダリヤ・アレイ)が現れ「ソルデューズと一緒の写真を渡さないで」と訴えるが、パナヒには何のことだかわからなかった。
翌朝、村の男たちがやって来て「若いカップルの写真を撮らなかったか」と尋ねられる。この村にはしきたりがあり、ゴザルの結婚相手はヤグーブ(ジャワド・シヤヒ)と決まっていたが、ソルドゥーズ(アミル・ダワリ)も彼女を好いており、流血事件になりかねない。そこで、証拠となる写真を欲しがっていたのだ。
クルミの樹の下のカップル、そんな写真を撮った覚えはない。困ったパナヒは村長(ナセル・ハシェミ)の家を訪ねるが、話がこじれてしまう。その夜、ソルドゥーズがやって来て、1週間後に2人で村を出るというのだが…。
アジコのおすすめポイント:
今もなお、映画制作禁止処分を受けているジャファル・パナヒ監督の最新作です。これまでも自宅や車、故郷の村を使ってユニークな作品を創りあげたパナヒ監督。今回も自分自身が主人公となり、自分と同じ境遇の映画監督を演じています。トルコでリモート撮影をしている映画の主人公は、ヨーロッパへ脱出しようとしているカップル。フィクションではなく、実際の脱出を映画にしようとしている設定。そこに、滞在中の村で起こったカップル事件に巻き込まれます。まるでドキュメンタリーを観ているような錯覚に陥る展開です。映画撮影や自分が写真を撮ったことから騒ぎが起こり、国境という危険ゾーンで2組のカップルにどんな運命が待ち受けるのか。のどかな田舎の村には、たくさんの風変わりなしきたりがあり、一筋縄ではいきません。「話合いで解決するなら、あなたはここにいない」という渦中青年のセリフが効いています。そして、熊の正体とは…。ちなみに、パナヒ監督は本作の完成後、取材に行った刑務所で逮捕されてしまい、今年の2月に保釈されました。困難の中でも不屈の精神で、自分なりの映画を世界に発信し続けるパナヒ監督。本作には、そんな監督の様々な思いが凝縮されています。
*監督の息子、パナー・パナヒ監督のデビュー作『君は行く先を知らない』も上映中です。
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