I 〜人に生まれて〜(生而為人/Born to be Human)
story
シーナン(リー・リンウェイ)は中学に通うごく普通の男の子。ゲームに夢中になったり、エロ本を見てマスターべーションにふけったり。だが最近、身体の調子がおかしい。性欲を感じるとお腹が痛くなる。学校で血尿が出て膀胱ガンかもと不安になるが、家でも血尿があり病院へ。泌尿器科では包茎感染症と診断され、同級生たちにからかわれた。
ところが、体育の時間に倒れて医務室に運ばれると、また出血している。両親は心配になり、専門の医者に診てもらう。精密検査の結果、ハーバード大卒の名医リー先生(イン・ジャオトー)は性分化疾患と診断。両親にインターセックスの説明をして驚かせる。シーナンの身体には男性器と女性器の両方が備わっており、生理が始まっていたのだ。
そのままではガンになる可能性が高いため、染色体を調べて性別と身体を適合させる手術を勧められる。そして、シーナンは何も知らされないまま、女性の身体になってしまった。手術後、激しいショックと怒りで自暴自棄になるシーナン。髪を伸ばし、15歳の誕生日には人形をプレゼントされるが、シーナンはケーキの上で燃やしてしまう。
実家は食堂を営んでいるので、シーナンは母親(ベラ・チェン)と台北で暮らすことになる。名前も女性名のシーランに変え、新しい学校に転校した。事情を知っているのは校長だけで、担任にも知らされていなかった。
心は晴れないままだが、隣の席のティエンチー(リャン・ルーシュアン)が親切にしてくれた。明るく積極的なティエンチーは、生理ナプキンの種類から洋服、ネイル、髪型、メイクまで、今どきの女の子の流行りを教えてくれた。
シーランはシーナンとしてティエンチーに好意を抱いており、二人はすっかり親友になるのだが…。
アジコのおすすめポイント:
性自認が男の子であるにも関わらず、性分化疾患ということを知らされず、女性の身体になってしまった主人公の苦悩を描いた社会派ドラマです。「性分化疾患」「インターセックス」という問題はあまり聞き慣れませんが、生まれる時に男女の区別となる成長過程に問題があり、様々な症例があるようです。心と身体のアンバランスとなる性同一障害とも違い、手術をするにしても時期の問題や本人の意向など、簡単ではなさそう。本作のように、親心で本人に伝えなかったことが仇となることもあるのです。この難しい問題を長編デビュー作に選んだのは、中国出身のリリー・ニー監督。アメリカで映画を学び、友人がきっかけでこのテーマに挑んだとのこと。詳細はメールインタビューをご覧ください。主演はNetflixのドラマ版「返校」(2020)で主人公を演じ、注目を集めたリー・リンウェイ。映画主演は初めてですが、本作での熱演で21年の大阪アジアン映画祭で薬師真珠賞を受賞しています。エンディングロールで流れる主題歌では監督が美声も披露。衝撃作ですが、偏見や差別をなくすためにも知っておきたい作品です。
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