ロウ・イエ監督が『パープル・バタフライ』以来、上海を舞台に描く王道スパイアクションです。原作は作家ホン・インの「上海之死」。一人の女スパイの上海での活動と顛末を描いた小説を、脚本のマー・インリーとロウ・イエが大きく改変し、太平洋戦争開戦前の情報戦で連合軍の諜報活動に協力した女優の姿が描かれます。さらに、劇中劇として登場する演劇の原作が横光利一の「上海」。酒場で偶然再会した男女の会話と、やがて恋仲になる二人。繰り返される酒場でのシーンと、かつて女優と恋仲になった舞台監督の状況がシンクロし、トリッキーに進行していきます。舞台のセリフ部分は「”」で囲ってあるので、字幕にご注意。果たして、女スパイが日本人少佐を相手に行った「マジックミラー作戦」とは?! 主演はコン・リー。美しさと力強さを兼ね備え、ガンアクションも披露する女スパイ役を貫禄で演じています。彼女に翻弄される舞台監督は台湾のマーク・チャオ、そして日本人少佐役をオダギリジョーといずれもハマり役で見事なキャスティング。危ない男と言われる護衛役の中島歩も強い印象を残します。スリリングな展開が美しいモノクロ映像で綴られていく中、劇で使われるジャズの生演奏だけが緊張をほぐしてくれる唯一の音楽に。撮影は現存する蘭心大劇院とキャセイ・ホテルが使用されており、蘭心大劇院の楽屋は舞台俳優を両親に持つロウ・イエ監督の幼い頃の遊び場だったとか。本作はそのご両親に捧げられています。