story
1989年、秋。11歳のリャオジエ(バイ・ルンイン)はいつものように、父タイライ(リウ・グァンティン)が給仕長として働くレストランの厨房の片隅で宿題をしている。おやつは客が残した菓子。残った料理は夕飯用の弁当になる。
仕事が終わって二人でアパートに帰ると、シャワーを浴びる。ガスも倹約。タイライはミシンがけで内職もしており、リャオジエが親戚の結婚式で着るシャツも手作りだ。タイライの唯一の趣味はサックスを吹くこと。そして、二人の目標は亡き母の夢だった理髪店を開くこと。「後3年くらいで家が買える」そんな二人を、家賃の集金に来る「美人のお姉さん」リン(ユージェニー・リウ)は温かく見守っていた。
台湾では、投資ブームが起こっていた。誰もが株を買い求め、アパートの1階で麺屋を営むリー夫婦も大金を稼いで有頂天。タイライの叔父も株で儲け、家の頭金を貸してくれるという。しかし、不動産価格も2倍になり、近所の自転車屋は家主のシャ社長(アキオ・チェン)から立退を迫られていた。タイライは家が買えなくなっていることに気づく。
その頃、レストランの上客としてジュンメイ(門脇麦)がやって来ていた。タイライは彼女が中学時代の初恋相手と気づいて落ち着かない。一緒に進学しようとしていたのに、彼女の留学で二人は別れた。今のジュンメイは有力者の妻だ。タイライに気づいたジュンメイは、いつもたくさん注文し、タイライとリャオジェのためにほとんどを残して帰った。
大人の事情がわからないリャオジェは、家が買えなくなったことに不満だ。学校では悪ガキたちのいじめに遭いみじめな思いをしていた。そんなある日、雨宿りをしていたリャオジェを、シャ社長が車に乗せる。彼は「腹黒いキツネ」と呼ばれる事業家で非情な男だ。不満で爆発しそうなリャオジェに昔の自分を見た彼は、リャオジェに他人への同情を断つ方法を教え込む…。
アジコのおすすめポイント:
戒厳令が解かれて投資が自由になり、一気に拝金主義へと進んでいく1989年の台湾を舞台に、持てる者と持たざる物の間で揺れ動く11歳の少年を主人公にした物語です。真面目で善良で心優しい人間と金のために非情に生きる人間が対極に描かれており、人間らしく生きるための価値観が試されます。貧乏でも愛情あふれる人生と裕福なのに孤独で侘しい人生。果たしてどちらが勝ち組と言えるのか。ラストにチラと登場する、成長した主人公が1つの答えを見せてくれています。監督はホウ・シャオシェン監督のもとで腕を磨いたシャオ・ヤーチュエン。本作はそのホウ・シャオシェンの最後のプロデュース作品にもなっています。
主人公を演じるのは、チャン・チェン主演の『ミスター・ロン』でデビューしたバイ・ルンイン。難しい役柄をしっかりと演じています。善良な父親役はリウ・グァンティン、狡猾な金持ち社長はアキオ・チェンと、それぞれにはまり役。親子を見守る集金人の女はユージェニー・リウ。デビュー作『怪怪怪怪怪物!』(ギデンズ・コー監督)で大きな怪物を演じていた彼女です。そして、父の初恋の人の今を、なんと日本の門脇麦が北京語を駆使して演じています。「お嬢様気質でちょっとわがままな感じがして、でも憂いが感じられてどこか孤独の影がある」30歳くらいの女優が台湾にはいなかった、ということで日本人女優を抜擢。即席で習ったとは思えないほどの北京語で演じる麦ちゃんとリウ・グァンティンのせつなくロマンチックなシーンも見どころです。
スタンダードナンバーの「When I Fall in Love」を主旋律にしたクリス・ホウの音楽も印象的で、金馬奨でオリジナル映画音楽賞を受賞しています。
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