ここ数年、新しいタイプのインド映画が増えているように思います。最近のインド映画界について教えてください。
松岡「インド映画、特にボリウッド映画と呼ばれるヒンディー語映画は、ここ数年で大きく変わりました。それまでは、ソング&ダンスシーンが5〜6箇所入る、娯楽要素がいろいろテンコ盛り、上映時間が2時間半以上と長い、というのがインド映画の特徴でしたが、それが変化してきています。
その大きな原因は、インドが経済発展して以降、都市を中心にシネコンが増えて、映画がフレキシブルに上映できるようになったことです。それまでの従来型映画館では、3時間という上映枠が決まっていたので、それに合わせて2時間40分ぐらいの映画でないとダメだったんですね。また、ハリウッド映画の上映も増え、その影響もあってインド映画も上映時間が短くなり、2時間ちょっとという作品が多くなってきました。
そのうえ、中間層の人々が豊かになってきて、それまでの映画に対する思い入れが薄れ、単なる娯楽という位置づけになってきています。そのため、 これでもかこれでもか、と楽しませてくれるコテコテの娯楽映画より、アッサリ系の作品が好まれるようになりました。ソング&ダンスシーンも少なくなり、今は2曲ぐらいしか入ってなくて、あとの曲はBGM的に使用する映画が増えています。
でも、南インドの諸言語の映画を始めとする地方語の映画は、昔ながらのスタイルを保っている作品が多いのです。ですので北インドでは、低所得者層の観客がボリウッド映画に見切りを付け、地元の言語の映画、たとえばマラーティー語やボージプリー語の映画に流れる、といった現象も起きています。
その影響もあるのでしょうか、ここ1、2年は揺れ戻し現象が起きていて、ヒンディー語映画でも南インド映画のリメイク作品がヒットしたり、南インド映画的なテイストのコテコテ娯楽映画が大ヒットしたりしています。やっぱりマサーラー映画(娯楽要素たっぷりの映画)が好き、というインド人のDNAは変わらない、というところでしょうか」
『ロボット』は歌と踊りもハイパー! (c)2010 Sun Pictures
俳優というと、日本ではラジニカーントやシャー・ルク・カーンが人気ですが、その他におすすめの俳優さん、注目の俳優さんはいますか?
松岡「インドはいろんな言語で映画を作っていて、それぞれの言語の映画界にスターがいます。ヒンディー語映画は『ボリウッド映画』と呼ばれて別格で、 ヒンディー語映画の俳優は全国で人気があり、また世界中にファンを持っています。
ボリウッド映画界のトップは、1990年代前半からもう20年間ずーっと『3人のカーン』です。アーミル・カーン、サルマーン・カーン、そしてシャー・ルク・カーンですね。サルマーン・カーンは、一時いろんなトラブルで人気が沈んでいましたが、ここ2、3年また盛り返し、今は一番人気となっています。でも、全員すでに40代後半。もう少ししたらお父さん役にシフトする年代になってしまうので、それが心配ですね。
あとに続くのは、リティク・ローシャン、アビシェーク・バッチャンら30代後半組で、そして20代の俳優になるわけですが、20代の俳優で今のところ群を抜いているのがランビール・カプールです。インド映画界のキングと言われた監督兼俳優ラージ・カプールの孫で、俳優リシ・カプールの息子ですね。この人は演技力もあって、昨年ヒットした『ロックスター(Rockstar)』などシリアスな作品もしっかりとこなしています。むしろ、ボリウッド映画的な華やかさが足りない感じですが、そのうちオーラが出てくるのでは、と期待しています。
続く男優の注目株は、『デリー腹(Delhi Belly)』(11)など低予算でクセのある映画に引っ張りだこのイムラーン・カーン。有名プロデューサーの孫ですがアメリカ生まれで、アーミル・ カーンの甥です。アーミルよりもさらに甘いマスクなので、鍛え方によってはメロドラマ俳優としても十分やっていけると思います。
あともう1人、ランヴィール・シンにも期待しています。先の2人とは違い、いかにも庶民の出というキャラで、その辺の兄ちゃん役をやらせたらハマりまくります。デビュー作『花婿行列が賑やかに(Band Baaja Baaraat)』(10)で新人賞を総ナメにし、以来順調にキャリアを重ねています。
ボリウッド映画界以外では、タミル語映画界ではラジニカーントとカマラハーサンが別格的存在で、特に常に政界進出がささやかれているラジニカーントは大物中の大物です。そんなラジニカーントですから、もう映画に出てくれるだけでありがたい、てなものなんですが、それでも『ロボット』のような気合いの入った役をやってくれるんですから、ファンが崇拝するはずです。昨夏一時体調を崩して心配されましたが、今は次女のサウンダリヤが監督する新作の撮影に入っているとか。今度のお相手は、ボリウッド女優で『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』(09)に主演したディーピカー・パードゥコーンだそうです。
ほかにタミル語映画界には、ヴィクラムとスーリヤという素晴らしいトップ男優がいます。ヴィクラムは、先日大阪アジアン映画祭でグランプリを獲得した『神さまがくれた娘』(11)で名演技を見せてくれたうえ、映画祭にも来てくれて、「いい人だ〜」エピソードを山ほど残していきました。もっと日本でも人気が出ていい俳優さんですね。
スーリヤも、日本ではまだ作品が上映されていませんが、演技力も華もある男優です。アーミル・カーン主演でヒンディー語映画にリメイクされた『ガジニ(Ghajini)』(05)とか、毎年のようにヒット作を出しています。ヴィクラムは「3人のカーン」と同年代ですが、スーリヤは 30代半ば組なので、これから日本でもどんどん知られてほしいものです。
それと、ラジニカーントの婿、つまり長女アイシュワリヤの夫ダヌシュもいい俳優です。先日アイシュワリヤが監督し、ダヌシュが主演した映画『3』が公開され、映画自体はコケたのですが、その中でダヌシュが歌う歌『Why This Kolaveri Di(なぜこんなにカッカしてるの、娘さん)』 が昨年から今年にかけて大ヒットしました。顔はいまいち(笑)ながら、長身でカッコよく、アクションのキレが抜群のダヌシュは、私のイチオシです」