『楽園の瑕・終極版』(c)1994, 2008 Block 2 Pictures Inc.
ウォン・カーウァイ監督の最新作『グランド・マスター』の公開に合わせ、90年代の香港映画ブームの最先端にいたウォン・カーウァイ監督の世界を再認識すべく、その代表作の数々と製作に携わった注目の関連作7本が、新たにDVD&ブルーレイで発売されることになりました。その前に、それらの作品群をスクリーンで堪能できるスペシャルな企画上映が「王家衛(ウォン・カーウァイ)Special」。シネマート六本木とシネマート心斎橋にて、7月20日より特集上映されます。
中でも注目なのが、日本未公開の『楽園の瑕・終極版』(08年)。本作は、94年に2年がかりで完成させた『楽園の瑕』の修正・再編集版。『楽園の瑕』は、金庸の武侠小説「射鵬英雄傅」に登場する剣豪たちの若き日の姿を描いており、レスリー・チョン、トニー・レオン、マギー・チョン、ブリジット・リン、ジャッキー・チョン、レオン・カーファイ、カリーナ・ラウ、チャーリー・ヤンと、当時の人気スターたちによる超豪華共演でも話題になりました。
そして2008年、この世界的にも高く評価された作品に監督自らが手を加え、今は亡きレスリー・チョンに捧げたのが『楽園の瑕・終極版』。本作では、アクションよりもドラマに重点が置かれ、レスリーの出演シーンが増えています。日本では唯一未公開のままだった本作を、いよいよスクリーンで堪能することができる、ファン待望の特別上映です。
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バカバカしさが楽しい本作。『楽園の瑕』のキャストを踏襲して撮影当初の役柄が反映され、出演場面が全部カットされたジョイ・ウォンも出てきます。また西毒役のレスリーがヤオシー(黄薬師=東邪)、盲武士のトニー・レオンがオウヤン(歐陽鋒=西毒)、ジャッキー・チョンは同じ田舎武士のホンチー(洪七)、そして東邪役のレオン・カーファイが王族のタン(段智興=南帝)を演じました。ヴェロニカ・イップ、ケニー・Bも出演。
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『大英雄』(c)1993, 2007 Block 2 Pictures Inc.
『楽園の瑕』の撮影当時、あまりにも撮影が長引いたため契約問題もあり、同じスタッフとキャストで1週間ほどでスピード撮影されたのが、裏『楽園の瑕』(原題:東邪西毒)とも言われる『大英雄』(原題:『射鵬英雄傅之東成西就』/93年)です。旧正月映画として作られた本作は、『楽園の瑕』をパロディにした荒唐無稽なコメディですが、こんなに豪華なキャスト(&スタッフ)によるコメディ映画が簡単にできてしまうのは、さすが香港ならでは。本作の監督は『チャイニーズ・オデッセイ』のジェフ・ラウが担当。ウォン・カーウァイは製作を担当しています。本作は過去に北京語吹替版のビデオがリリースされていますが、今回は広東語版での初上映。吹替えでない生声の俳優もいるのがお楽しみ。
『恋する惑星』(c)1999, 2008 Block 2 Pictures Inc.
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香港映画といえばカンフーものかキョンシー、アクションだったイメージを、お洒落でファッショナブルなものに変えたのが、『恋する惑星』(94年)と『天使の涙』(95年)でした。『恋する惑星』は、『楽園の瑕』で疲れ果てた監督が気分転換にさくっと撮影した作品。その軽やかさを反映するような浮遊感が、主人公のフェイ・ウォンと金城武に反映され、2組の恋の行方が時に交錯しながら描かれます。当時は、ロケ地巡りも流行し、重慶マンションやフェイが働いていたスタンドを訪れるファンが大勢いました。
『天使の涙』(c)1999, 2008 Block 2 Pictures Inc.
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『初恋』(c)1997, 2008 Block 2 Pictures Inc.
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『天使の涙』は『恋する惑星』の3つ目のエピソードになるはずだったストーリーを再構築した作品。レオン・ライにミシェル・リー、金城武にチャーリー・ヤンと2つのエピソードが最後に合わさったのが印象的な作品。クリストファー・ドイルの鮮やかな映像が注目されていた頃でもあります。金城武とカレン・モクが登場する『初恋』(97年)は、当時、軟硬天使としてDJやラッパーで活躍していたエリック・コットが初めて監督を任された作品です。アーチストでもあるエリックならではの、不思議な作品になっています。
『ブエノスアイレス』(c)1997, 2008 Block 2 Pictures Inc.
『ブエノスアイレス 摂氏零度』(c)1999 Block 2 Pictures Inc.
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カンヌ国際映画祭でウォン・カーウァイが監督賞を受賞したのが『ブエノスアイレス』(97年)。アルゼンチンでの過酷なロケ、当初、役柄を知らされず撮影入りをしたというトニー・レオンの葛藤などなど、裏エピソードも多い作品ですが、音楽、映像とも素晴らしく、なんといってもレスリー・チョンとトニー・レオンのゲイ・カップルのせつなさがにじみ出た作品です。
『欲望の翼』のザビア・クガートと同じく、本作ではピアソラのタンゴやカエターノ・ヴェローソ、フランク・ザッパ、そしてラストの「ハッピー・トゥゲザー」に至るまで、音楽も強く印象に残る名作となっています。カミソリ役のチャン・チェンが、ウォン・カーウァイ作品に初登場したのも本作です。
そして、その『ブエノスアイレス』のメイキング・フィルムとも言えるのが『摂氏零度』(99年)。シャーリー・クァンなど、カットされた女優たちのシーンやエピソード、リハーサル風景や撮影時のオフショットなど、映画を作った人たちの当時の様子や苦労が明かされていく貴重なドキュメンタリーです。
『花様年華』(c)2000, 2009 Block 2 Pictures Inc.
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最後にご紹介するのは、トニー・レオンをカンヌ影帝に押し上げた傑作『花様年華』(2000年)。1960年代の香港を舞台に、互いの伴侶が浮気しているのではと相談するうちに恋に落ちていく、大人の道ならぬ恋を描いた作品です。
マギー・チョンが美しく着こなすモダンなチャイナドレスの数々や、密会する2人の食事シーン、初めてロケ隊が入ったというアンコールワットでの撮影など、見所も豊富。人間の出会いと別れ、その中で揺れ動く愛を描いてきたウォン・カーウァイの集大成とも言える完成度で、国内外で数多くの賞を受賞しています。『欲望の翼』(90年)と本作、そして『2046』(04年)を合わせて、3部構成としても楽しむことができます。
こうして作品群を眺めてみると、黒と白が基調カラーとなっている最新作『グランド・マスター』に描かれている愛のエピソードも納得できるのではないでしょうか。ウォン・カーウァイ作品の魅力を、あらためて大きなスクリーンで味わってください。
▼『グランド・マスター』舞台挨拶 ▼作品紹介 | ▲ウォン・カーウァイ・スペシャル
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