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ASICRO FOCUS file no.176

「グランド・マスター」ジャパンプレミア舞台挨拶

2013.5.30 TOHOシネマズ六本木ヒルズ

 ウォン・カーウァイ監督が久々の新作を引っさげて、主演のトニー・レオンと共に来日。日本全国公開直前の5月30日、TOHOシネマズ六本木ヒルズで開かれたジャパン・プレミアで舞台挨拶を行いました。その新作『グランド・マスター』は、香港映画としては、前作『2046』(04年)以来約10年ぶりの作品。しかも、あのブルース・リーの師匠として有名なイップ・マンを描いた初カンフー作品です。

ウォン・カーウァイ監督と真木よう子、トニー・レオン

ウォン・カーウァイ監督、真木よう子、トニー・レオン

 きっかけとなったのは17年前、『ブエノスアイレス』を撮影中に見た雑誌の表紙のブルース・リー。彼が受け継いだマーシャルアーツの哲学を師匠のイップ・マンに重ね合せ、当時、香港に流れ着いてきた武術の達人たちの生きざまと精神を描いています。しかも、特撮やスタントを極力排して、俳優たち自らが訓練を重ね、本物の武術を披露しているところが最大の見所。ウォン・カーウァイならではの美学に満ち溢れた作品となっています。

 そんな監督の自信溢れるスピーチと、日本ではお馴染みの主演俳優トニー・レオンの苦労話が聞ける舞台挨拶をご紹介します。

 監督「皆さん、こんにちは。今回は『グランド・マスター』を携えて東京へ来ることができました。皆さんにお会いできて、とてもうれしいです」

 トニー「皆さん、こんにちは。10年ぶりに、またウォン・カーウァイ監督と仕事ができました。この映画で、皆さんともまたお会いできました。気に入っていただけるといいですが」

 司会「この作品は構想17年、準備期間7年、さらに撮影に3年と壮大なスケールで、まさに監督が願っていた作品だと思いますが、どうしてこのようなテーマの作品を作ろうと思ったのですか?」

 監督「刺激的でスリルがあり、面白くて素晴らしい武術映画を皆さんにお見せしたかったのです。『グランド・マスター』は、そのレベルに達していると思っています」

 司会「イップ・マンを主役にしようと思った理由は?」

 監督「普通、武術をやっている人は武人と思われていますが、イップ・マンは普通の武人とは違い、文人の気質を持っています。もとはお金持ちの家の出身で、普通の武術家とは違っています。また、彼の一生はとても起伏が激しかった。生まれた時はお金持ちで何でも持っていたけれど、晩年はすべてを失いました。しかし、彼は最後まで自分を奮い立たせ、自分の生きざまを貫いたことで、最後にはグランド・マスターになりました。まさに、映画のテーマにふさわしい人物です」

 司会「そのイップ・マン役にトニー・レオンさんを起用した理由は?」

 監督「イップ・マンは武人というよりも文人の気質を持っているので、キャラクターを選ぶとすれば、まず、根が優しい。それから文人というか学者の気質を持っている。さらにロマンチスト…そういう部分を重ね合わせると、トニー・レオンは最良の選択だったと思います」

 司会「監督、さすがですね!」(場内、拍手)

 監督「皆さんも、トニーを選んだことには賛成ですよね?(さらに、大拍手)それにもう1つ、トニーには武術の才能があると感じたのです。たしかに、この映画を撮る前まで、トニーは武術をやったことがありませんでしたが、ご覧になるとわかるように、この映画のために訓練をして素晴らしい技術を身につけてくれました。もともと、才能があったんだと思います」

 司会「このようにおっしゃっていますが、トニーさんは、最初にイップ・マン役をやると聞いた時はどんな気持ちでしたか?」

 トニー「とても嬉しかったですね。子どもの頃はブルース・リーを見て育ったし、そのブルース・リーの師匠であるイップ・マン役をやれるのですから」

 司会「相当な訓練をされたと思うのですが、3年くらいかかったと聞いています。怪我はしませんでしたか?」

 トニー「しましたよ。この映画の話を受けた時から、カンフー映画が大変だというのは覚悟していました。ただ、練習を始めてから半年か9ヶ月ほど経って、ある程度のレベルに達した時に、なんとトレーナーのキックを受けて骨折することになろうとは思ってもいませんでした。骨折したので、半年は動けない。半年後にやろうとすると、またゼロから始めなければなりません。そして、クランクインの初日に、また骨折してしまいました。また半年お休み。だから、カンフーが大変だったというよりは、そういうことが繰り返し起こったことが大変でした。撮影が終った時はとてもうれしかったし、達成感がありましたね」(拍手)

 司会「実際にグランド・マスターの方々にお会いしてトレーニングをしたそうですね?」

 トニー「撮影の1年か1年半くらい前から、トレーニングを続けていました。撮影中もずっとやっていたから、大体4年くらいはずっとトレーニングをやったことになりますね」

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シークレットゲストの真木よう子から花束をもらう監督
 と、トニーの苦労話で盛り上がったところに、美しいゲストが登場。二人のファンである女優の真木よう子が登場して、二人に花束を贈呈しました。続いてフォトセッション。

 真木「もう、昨日からどきどきしっ放しで、映画を観たばかりだったので、まさかこのお二人に会えるなんて…自分が出る映画より緊張しています」

 司会「映画をご覧になっていかがでしたか?」

 真木「細部にこだわる映像が素晴らしくて、とても感動しました。予告でも流れているセリフで、『受け継がれるのは、技よりも心だ』というのがすごく胸に来まして、やっぱりこの映画全体を語っていると解釈しました」

 監督「真木さんのような優秀な女優さんに自分の映画を観ていただき、しかも感動したと言っていただけて、とても嬉しいです」

 司会「真木さんはドラマ『SP』でアクションもやっておられましたが、今回のトニーさんを観ていかがでしたか?」

 真木「規模が違うというか、前情報で、映画がクランクインする何年も前から武術を習っていらっしゃったと聞いていたので、同じ役者としてとても尊敬しますし、それがほんとに絵に完全に写っていて、身体の動かし方とか、筋肉の動かし方とか、ぜんぜん違いますし、予想以上の迫力でしたね」

 司会「カンフーをやってみたいとか?」

 真木「思いました(笑)」

 司会「真木さんがカンフーもチャレンジしてみたいと言っていますが、何かアドバイスを」

 トニー「とても大変ですよ」
 監督「トニーはいい俳優であると共に、いいコーチでもあります。特に女性に教えるのはすごく得意ですよ(笑)」とジョークを飛ばす監督に
 トニー「あなたには勝てませんよ」と返していました。

シェネル、Ai、ウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン

シェネル、Ai、ウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン

 続いては、イメージソングを歌っているAiとシェネルが登場。忙しい中を駆けつけたシェネルは「こんなチャンスを逃すことはできないのでやって来ました」と興奮気味。そして、「絶対にいつかよくなる」という歌詞に、「そういう世界になっていけば」という思いを込めたというイメージソング「After The Storm」をデュエットで生ライブ。監督とトニーは客席に座って観賞。二人のソウルフルな歌声に、

 監督「とても感動しました。特にイントロを聴いた時、この映画の最初の雨のシーンを思い浮かべました。それに、二人でデュエットをしていますが、この映画のテーマでもある、人は一人では生きていけない、必ず誰かと支えあって生きて行かなくてはならない、というのが感じられて感動しました」

 トニー「素晴らしいパフォーマンスでしたね」

シェネル、Ai、ウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン ライブの後のフォトセッション。

シェネル、Aiと楽しげに談笑する監督とにこにこ見守るトニー

 そして最後に、日本の観客へのメッセージを伝えて、ジャパンプレミアは終了しました。

 トニー「映画を気に入っていただけることを祈ってます」

 監督「もともとカンフー映画をお好きな方は、ぜひご覧になってください。もし、この映画が最初のカンフー映画だったとしたら、素晴らしい始まりになると思います。今までカンフー映画を知らなかった方は、この映画を観ると考えが変わるでしょう。この映画は2人の武術家を描いています。彼らの情、人生、頑張る姿、そして最後にグランド・マスターになっていく姿を描いています。ぜひこの映画を観た後、中国武術と中国人をより深く理解してください」

 5月31日より絶賛公開中の『グランド・マスター』は、6月29日から劇場を移してのロングラン上映が決定。シネマート新宿でも上映されますが、続く7月20日からはシネマート六本木にて「ウォン・カーウァイ・スペシャル」と題し、日本初公開となる『楽園の瑕・終極版』(08年)に旧作4本を含む見逃せない7本の作品が特集上映されます。ウォン・カーウァイ作品の魅力が堪能できる、またとないチャンスです。


▲『グランド・マスター』舞台挨拶 ▼作品紹介 | ▼ウォン・カーウァイ・スペシャル
更新日:2013.6.29
●back numbers
舞台挨拶の表記
司会
監督(ウォン・カーウァイ)
トニー(トニー・レオン)
profile:ウォン・カーウァイ
ウォン・カーウァイ
王家衛/Wong Kar-Wai


1956年7月17日、上海生まれ。5歳の頃、香港に移住。香港理工学院の美術デザイン科で学び、テレビ局で監督修行を積んだ後、映画界へ転身。脚本家からスタートし、88年に『いますぐ抱きしめたい』で監督デビューする。続く『欲望の翼』(90年)で香港電影金像奨の監督賞・作品賞他を受賞。アジアで高い評価を得る。

92年、製作会社ジェット・トーン・フィルムズを設立。完成に時間のかかった『楽園の瑕』(94年)の合間に短期間で撮影した『恋する惑星』(94年)が世界各国で大ヒット。アルゼンチンで撮影した『ブエノスアイレス』(97年)は、カンヌ国際映画祭でプレミア上映され監督賞を受賞。世界の一流監督としての地位を確立し、その後も寡作ながら話題作を発表し高い評価を受けている。
Filmography
・いますぐ抱きしめたい(88)
・欲望の翼(90)
・恋する惑星(94)
・楽園の瑕(94)
・天使の涙(95)
・ブエノスアイレス(97)
・花様年華(00)
2046(04)
愛の神、エロス(04)
 *オムニバス作品
 「エロスの純愛〜
  若き仕立て屋の恋」
マイ・ブルーベリー・ナイト
 (07)
それぞれのシネマ(07)
 *オムニバス作品
 「君のために9千キロ旅して
  きた」
・楽園の瑕・終極版(08)
グランド・マスター(13)

いますぐ抱きしめたい

いますぐ抱きしめたい
(ジェネオン・ユニバーサル)

欲望の翼

欲望の翼
(ジェネオン・ユニバーサル)

2046

2046
(TCエンタテインメント)

愛の神、エロス

愛の神、エロス
(TCエンタテインメント)

マイ・ブルーベリー・ナイツ

マイ・ブルーベリー・ナイツ
(角川映画)

それぞれのシネマ

それぞれのシネマ
(角川エンタテインメント)


profile:トニー・レオン
*プロフィール、フィルモグラフィなどの詳細情報はこちらをどうぞ。

●過去の来日特集
『傷だらけの男たち』
 舞台挨拶
(07年)
『レッドクリフ Part1』
 記者会見
(08年)