昨年の東京国際映画祭でワールド・プレミア上映され、見事、観客賞と最優秀男優賞に輝いたフィリピン映画『ダイ・ビューティフル』が、いよいよ7月22日より日本で公開されます。主人公は2歳の頃から男の子が好きだった、というトランスジェンダーの少年パトリック、というよりは少女トリシャと呼ぶ方がいいかも。冒頭から世界のミス・クイーンの衣装を着て、歯に矯正ブレードをつけたまま「私はトリシャ・エチェバリア」と優雅に微笑む姿は少女そのもの。そんな彼女が、様々な困難を乗り越えて夢の頂点、ミス・ゲイ・フィリピーナで女王の座に輝いた直後、くも膜下出血で亡くなってしまいます。
物語はここからスタート。幼い頃からのトランスジェンダー仲間で親友のバーブスが、棺に横たわっているトリシャをアンジェリーナ・ジョリーに変身させています。コンテストの少し前、何気なく交わした会話。「死ぬ時はどんな姿がいい?」に、バーブスは神様からもらった姿に戻ると男装を希望したのに対し、トリシャは「神様からの贈り物をこんなに素敵にしました」と自慢することに。二人が得意のそっくりメイクで、初七日の1日目はアンジェリーナ・ジョリーにしてとトリシャが話していたのを、実現するためでした。トリシャは毎日違うメイクで逝きたいと希望していたのです。
BFと駆けつけたシャーリー・メイ
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養女でも母と娘の絆は固かった
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幼い頃から未来のクイーンを託されたシャーリー・メイ
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そこへ、家出していた養女のシャーリー・メイが驚いて、ボーイフレンドと葬儀場へ駆けつけてきます。彼女は縁あってトリシャが引き取った孤児。そこから物語は、トリシャと9歳のシャーリー・メイとの出会い、母と娘のエピソードへ。さらに、19歳の頃のトリシャとバーブスのメイク比べ、高校時代に憧れた初恋の男の子とのエピソードへと時間が遡っていきます。そして、葬儀場は2日目に。今日のメイクは、トリシャにトロフィーを渡してくれたフィリピン女優のイザ・カルザドに。そこへ本人が弔問にやって来て…という趣向。
毎日のメイクと弔問の間に、故人を思い出すかのように、トリシャの厳格な家庭のことや、家出してバーブスとミス・コン行脚に出かけた話、豊胸手術や運命の人との出会いなどが、人生のハイライトとして綴られていきます。ところが、葬儀場の主人が撮った記念写真をフェイスブックに載せてしまい、あっという間に話題に。様々な人が弔問に現れ、有名デザイナーまで車でかけつけるのですが、家族にも見つかってしまい、怒った父親が警察を連れてやって来てしまいます。さて、無事に7日間の変身はできるのでしょうか?!
姉は戸惑い厳格な父とは対立する
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悩んだ末、家族とは決別することに
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ストリップホールで出会ったマイケル
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運命の人ジェシーとの出会い
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主人公のトリシャを演じたのは、オーディションの脚本読みで監督の心を掴んだパオロ・バレステロス。昨年の東京国際映画祭のレッドカーペットではアンジェリーナ・ジョリーに扮して注目され、さらにサプライズで登場した最優秀男優賞の授賞式ではジュリア・ロバーツに変身しています。こんなことができるのも、実はパオロ自身がメイクアップ・アーティストだから。インスタグラムでハリウッドセレブに扮した写真を公開しており、すでに国内外で注目されているのでした。しかも、13年に脳卒中で倒れた時に、リハビリの一環としてこのメイク技術を身につけたというから驚きです。素顔はいたって普通の好青年。7歳の娘と奥様はシカゴに住んでいるとのこと。
トリシャの他にも気になる俳優が多数出演しています。中でも注目したいのは、トリシャの親友バーブスを演じたクリスチャン・バブレス。華やかなトリシャに対して、やや抑えた知的なメイクをしていたバーブス。いつもトリシャの隣にいて、最後はメイクで親友をおくる重要な役柄を演じています。クリスチャン・バブレスは本作でブレイクした有望な新人俳優。メトロ・マニラ映画祭で助演男優賞を受賞しており、ラナ監督による本作のスピンオフ・シリーズ『Born Beautiful』でバーブスのその後を演じるという楽しみなニュースも伝わっております。イケメンファンは要チェックですよ。
ミス・コンで一緒に旅をした二人
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バーブスはいつもトリシャを見守っていた
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幼い頃からの親友バーブス役を演じたクリスチャン・バブレス。昨年の映画祭でも注目されていましたが、本作公開後、フィリピンでブレイク中です。
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トリシャの厳格な父親を演じたのはフィリピンの名優ジョエル・トーレ。『牢獄処刑人』では、素晴らしい演技を見せていました。さらに、葬儀場「ハッピー・エンディング」のゲイのオーナー、フローラを演じていたのが、フィリピンの重鎮ルー・ヴェローゾ。実は昨年の東京国際映画祭でお披露目された「アジア三面鏡2016:リフレクションズ」の三部作、プリランテ・メンドーサ監督の『SHINIUMA』で主演。ゲストとして同時来日されていました。また、ラナ監督作の常連俳優、グラディス・レイエスがトリシャのお姉さん役、ユージン・ドミンゴがウェディングドレスを持って現れる有名デザイナー役で出演しています。幼いシャーリー・メイを演じたおませな女の子はイナ・デ・ベレンちゃんです。
父親を演じるジョエル・トーレ
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ゲイに扮したルー・ヴェローゾ
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愛する人たちに囲まれて。右端がデザイナーに扮したユージン・ドミンゴ
監督は今や東京国際映画祭の常連となったジュン・ロブレス・ラナ。多数のTVシリーズを手がけながら、12年にエディ・ガルシア主演の『ブワカワ』で監督デビュー。70歳になるゲイの老人とブワカワという名の犬との絆を描いた作品で、米アカデミー賞外国語映画賞のフィリピン代表作に選ばれています。続く13年の東京国際映画祭では『ある理髪師の物語』で2度目の参加。主演のユージン・ドミンゴが最優秀女優賞を受賞しました。そして、昨年は3回目の参加で、なんと観客賞と最優秀男優賞を受賞という快挙を遂げたのでした。
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TIFFでの記者会見で。「レッドカーペットを歩いたのは初めて。しかもアンジェリーナ・ジョリーだからね(笑)。とてもスリリングだったけど、あちこち締め付けてるし、ハイヒールだし痛かったよ」
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昨年の記者会見で「2014年にこのアイデアが浮かびました。ジェニファー・ラウデというトランスジェンダーの女性が殺されたんです。ところが、ソーシャルメディアにはトランスジェンダーだから殺されて当然だと言う人もいて、この映画を作らなくてはと思いました。映画を通じて、トランスジェンダーを理解して欲しかったし、彼女の人生を知って欲しかったのです」と語っていた監督。「私の映画の女性たちは、皆、強くて知性があり、偏見を持った社会にも楽観的に立ち向かっていきます。今回は死で始まっていますが、彼女がどう生きたかがテーマなのです」というように、主人公の死から始まる物語を、7日間の化粧直しと弔問の合間に、主人公の生き様がときにユーモラスに、ときにシリアスに、いろんなエピソードを交えつつ丁寧に描かれており、愛する人たちに見守られて旅立つ主人公の人生をしみじみと感じさせる感動作に仕上がっています。『ダイ・ビューティフル』は7月22日より新宿シネマカリテ、他全国順次公開予定。ぜひ、劇場でじっくりと味わってください。
(c) The IdeaFirst Company Octobertrain Films
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