アジアを舞台に映画を撮る
新鋭監督−川口浩史
芥川龍之介の名作「トロッコ」を、現代台湾を舞台にみずみずしく描いた川口浩史監督。長編デビュー作にして台湾を代表する映画人たちと組み、次回作「チョルラの詩」では韓国を舞台にオール韓国キャストで撮りあげるなど、アジアでのコラボレーションが続いています。そんな川口浩史監督とは、一体どんな人なのでしょう? というところからインタビューはスタート。まずはインタビュー前半をご紹介します。
Q:映画監督になられたきっかけは?
監督「18歳の時、高校を卒業してすぐバックパッカーになり、25ヶ国を旅して回ったんです。89年の激動の頃で、天安門とかベルリンの壁を通り過ぎました。教科書で習った英語しかしゃべれないので、周りの方とはまったくコミュニケーションがとれない状態でした。そんな時ふっと、映画をいろんな所でやっていたんです。 日本映画もやっていて。一番驚いたのは、タクラマカン砂漠のオアシスで、言葉も感情表現もまったく通じないような田舎町で日本映画をやっていて、それを観て皆が泣いたり笑ったりしてるんですね」
Q:何という作品だったのですか?
監督「『刑事物語2/りんごの詩』っていう武田鉄矢さんの作品です。これを観た時に『すごいな!映画は』って思って。外国人の方とコミュニケーションをとりたいというのもすごくあって。どうしたら歴史も文化も常識も違う人たちとコミュニケーションがとれるんだろうっていう思いがあったんですけど、映画はそれができると。それでやりたいっていうのが最初でしたね」
Q:では、もともと映画ファンだったからというのではなく?
監督「もちろん、母親がよく映画に連れて行ってくれて、ディズニーの映画だったり『がんばれ!ベアーズ』とかアメリカ映画をよく観ていたので、映画が好きというのは大前提にあるんですが、映画を作りたいと確信を持ったのがその時なんです。当時はアメリカ留学している友だちもいたんですが、日本の映画を撮るのなら、やはり日本で映画を勉強しなくてはいけないと思って今村昌平さんの学校(日本映画学校)に入り、今村昌平とは何者なのか?から始まって、日本映画を勉強していきました」
Q:では、邦画はあまりご覧になっていなかったんですか?
監督「観てないですね(笑)。かろうじて観たのは黒澤明さんくらいで。それと、80年代、90年代の映画という感じですね」
Q:今回は芥川龍之介の原作ですが、小説がお好きだったそうですね?
監督「映画化するということよりも、芥川や夏目漱石の時代とか、その小説の持っている完成度の高さがすごく好きで、日本文学の勉強というよりも物語として読んで面白いと思いました。読み始めたのは高校の頃からで、日本文学で誰が好きかと聞かれれば、芥川とか夏目漱石の名前を出してましたね」
Q:『トロッコ』を選んだのは思い入れがあるからですか?
監督「教科書で読んだんですね。その時に、(主人公の良平が)まさにオレだなと思って。憧れたものに乗るんだけど、自分が選んだものに後悔しながら、不安と恐怖を感じながら、必死で家に帰るってのがまさに自分だなと思って。それはそれで、当時は面白いと思ってました。
それが、自分で映画を作る状況になって、24歳で助監督になり、自分ならどういう映画を作るか?と自問自答した時に、『トロッコ』やりたいなと思ったんです。もう1つ、中島敦の『山月記』というのがあって、これもいい話なんですが、中国のお話ですごくお金がかかるんです。『トロッコ』は日本の下田だし、短編でかわいらしいお話なので、その方がいいと思った訳です(笑)」
Q:じゃあ、最初はコンパクトに作ろうと思っていたのが、いきなり台湾になってしまったんですね(笑)
監督「そうです(笑)。撮影する場所がぜんぜんなくて、台湾にあるって聞いたので台湾に行ってみたらほんとうにあって、これはすごいと」
Q:トロッコはたくさん残っているんですか?
監督「ありますね。トロッコというか、廃線になった線路がたくさん残っています。日本だと危ないから撤去しちゃうんでしょうけど、台湾の人たちはそのままにして、そこを遊歩道にしているんですね。それだけでも、すごくゾクゾクするんですよ。子どもだったらうれしいだろうなあと。ボロボロの線路で、途中で切れてたり、樹木を巻き込んでたりするんですけど、ほんとにジブリの世界みたいな感じで」
Q:そうなんですよね。映画を観ていて、トトロの森みたいな印象を受けました。自分の田舎を思い出したりもして、懐かしい感じもありますね。
監督「そうなんですよ。台湾って…面白いのは、行ったことのない人が行って懐かしい感じがするんですよね。何なんだろうなあ?と思って。それも大きなもう1つのきっかけでしたね。日本の人たちが懐かしいと思う原風景が残っているというか。これは残したい、映画として焼きつけたいというのがありましたね」(続きを読む)
続きを読む P1 > P2 > P3 > P4 ▼作品紹介
|