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asicro interview 39

更新日:2011.3.28

Q:特に気に入っている場面はありますか?

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ブンミおじさんと妻との抱擁は監督もお気に入りのシーン
(c)A Kick the Machine Films
 監督「一番好きなシーンは、ブンミと妻がベッドルームにいるところです。とても長いロングテイクですが、ふたりで親密な会話をしますよね。まるでふたりとも何かにとり憑かれたように、役柄に入り込んでいました。普段の日常生活では、あのふたりはそんなに親しくありません。だから、あのシーンを撮影する時は驚いて見ていました。実際はかなりよく撮れたので、何テイクも撮りなおす必要はなかったのですが、あまりにもいいシーンだったので『もう1回』ってもう1回演じてもらったりして(笑)。カメラマンは、撮影しながら泣いてしまいました。映画の中でこのシーンを観るとあの瞬間を思い出すので、このシーンが一番好きです」

●アーティスト活動と映画監督

Q:監督はアーティストとしても活躍をしておられ、この作品もアート作品の一環として作られたわけですが、今回初めて一般公開されることになりました。日本の観客にはどのように見てもらいたいですか?

 監督「この作品は個人的な日記のようなものです。それを皆さんと共有できるのは驚くべきことだし、うれしいのですが、パーソナルなことという意味で説明しづらい内容も多々あります。なので、観客の皆さんには心を開いて映像や音が流れ込むままに身を任せて欲しい。理屈を捨て、新しい世界を発見するような気分で観て欲しいです。自分自身の経験の中から映画と重ねられるような部分を見つけだしてください。これまでにいただいた感想でも、そのような意見が多かったので」

Q:アーティストとしてのお仕事は個人作業ですが、映画は集団作業です。その違いや面白さを教えてください。

 監督「たしかにアーティストと映画作家では動き方が違います。映画作りで一番難しいのは、50人や100人もの人に自分が感じている微妙な感情を伝えられるかということ。なので、私は常に家族的なクルーに囲まれて仕事をするのが好きなんです。撮影や照明などいろんなチームがありますが、トップにはいつも同じ人を起用します。お互いに理解し合っている人々と仕事をするようにしています。

 時には『これは君のスタイルじゃないよ』と言われて、『僕のスタイルって何?』と問い返したりして、そのスタッフの指示に従うこともあります(笑)。クルーやスタッフと家族的な付き合いをしていると、彼らの実経験をそのまま取り入れて使うこともあり、そういう意味では、とても有機的な関係の中で映画を作っていると思います。そして、長い時間がかかる。2、3年かかることもあるので、こういう付き合いを重ねながら映画を作っています。

 こんなに時間をかけて映画を作っていると、今すぐ表現したい発想が生まれることがありますよね。そんな時に、アートで軽く、しかも抽象度の高いものを表現することができます。そのような短編映画やインスタレーションを作った時に、その経験がまた長編映画の製作に役立つことがあるんです。その両方はうまい具合にバランスをとることができるのですが、大きな違いは、観客の観賞のし方と資金繰りの方法です。

 今回は初めて『プリミティブ・プロジェクト』という、アート作品とインスタレーション、短編映画、写真、本、そして長編劇映画を、同じ傘下で資金を集めて展開できました。美術館が出資したり、映画の配給会社が出資したりしていて、一人の作家のいろんな作品に対していろんなパートナーが手を組むという方法を、今回は選びました。このプロデューサーのサイモン・フィールドという人は、場合によっては、長編映画の新しいファイナンシングの方法かもしれないと話しています」

Q:猿の精霊が好きなんですが、これは『スター・ウォーズ』のチューバッカや『2001年宇宙の旅』の冒頭に出て来る猿人を思い浮かべました。この作品はアートフィルムですが、SF映画の影響もあるのでしょうか?

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アーティストとしても活躍する監督の素顔は意外とフツー感覚
 監督「たくさん影響を受けました。子どもの頃は、スピルバーグからたくさんインスピレーションをもらいました。12歳の時に『ET』が上映され、特殊効果のハリウッド映画やディザスター映画があるとすぐに観に行かないと気がすみませんでした(笑)。何百人もの人が20秒間の映像のために仕事をしているかと思うと、それはすごいなあと。産業としてのハリウッドは尊敬せざるを得ません」

 実際に監督と会うまでは、繊細で気難しい人かもと緊張していたのですが、1つ1つの質問にやさしい口調で丁寧に答え、質問以上にたっぷりと答えてくれるお話好き。インタビューも『え?もう終わり?』という感じで、じゃあもう1つだけと答えてくれたのが、最後の質問。少年時代はスピルバーグが好きだったと意外な一面を見せて一同を驚かせましたが、根っこは普通感覚を持つチャーミングで親しみやすい人という印象でした。

 『ブンミおじさんの森』が多面的な構造を持っているのは、アーティストならではの視点が表現されているから。映像やショート・ストーリーのコラージュ的な作品と言ってもよいかもしれません。そこから何を感じ取るかは観客の自由。映像を楽しむもよし、個々のストーリーを読み解くもよし。自分の感性で楽しんでください。

(2010年12月2日 渋谷にて4媒体合同取材/photo提供:ムヴィオラ)

 最後に、3月11日に発生した大震災の影響で、シネマライズでは初回と最終回の上映を中止していましたが、3/26より通常通りの上映が再開されています。(状況により変更もあり得るので、事前にご確認ください)また、3月16日の公式ブログに監督からのお見舞いメッセージが掲載されていますので、ここに転載させていただきます。

「Dear All,

 I hope you, your relatives, and loved ones are all right.
 Sending you my deep consolation. Stay safe.
 Worried

 Apichatpong Weerasethakul」


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●back numbers
filmography
長編映画作品

・真昼の不思議な物体(00)
 *バンクーバー国際映画祭
  特別賞
 *全州国際映画祭グランプリ
 *山形国際ドキュメンタリー
  映画祭 優秀賞
  NETPAC特別賞

・ブリスフリー・ユアーズ
 (02)
 *カンヌ映画祭
 「ある視点」部門グランプリ
 *東京フィルメックス
  最優秀作品賞

・アイアン・プッシーの大冒険
 (03)
 *共同監督作品
 *東京国際映画祭招待作品

・トロピカル・マラディ(04)
 *カンヌ映画祭 審査員特別賞
 *東京フィルメックス
  最優秀作品賞

・世紀の光(06)
 *ヴェネチア映画祭招待作品

・ブンミおじさんの森(10)
 *カンヌ映画祭パルムドール

●短編映像作品は多数ありますので、公式サイトの作品リストをご覧ください。