logo


asicro interview 43

更新日:2011.11.12

フー・メイ監督と孔子像

孔子像(奥)とフー・メイ監督とのツーショット!
●映画版とドラマ版

Q:本作は、もともとTVドラマとして考えておられた企画を映画に凝縮されたわけですが、映画版で伝えたかったところはどの部分でしょう?

 フー・メイ監督「まず、孔子が51歳になる前の前半はすべてカットしました。孔子が一生懸命、学問の修行をする若い部分は全部カットしました。また、若い頃にいろんな人と議論をしたところもカットしました。映画に残したのは51歳からの後半、晩年の20年です。73歳で亡くなっていますので。

 51歳からの孔子の人生は、主に列国周遊の旅に出たというところ。その前に魯の国の重要な役職につき、軍事家、外交家、政治家として大きな手腕を発揮します。そのあたりから、列国周遊の旅に出て遊説をするというところにポイントを置いて描いています」

孔子が苦しんでいる部分ですね。


 監督「苦しんでいるとも言えますが、最も輝かしい時期とも言えます。宰相の地位、いわば魯の国の総理大臣になり、彼が持っていた政治的な理想を、魯の国でほとんど実現しかけました。孔子の力によって、[シ文]上三城という土地を斉の国から奪い返しますよね。非常に外交的な、強力な手腕を発揮して、輝かしい働きをします。その政治的に最も輝かしいところから、一気に奈落の底に落ちて失意の旅に出る。それから教育者として、弟子たちを引き連れて教育、遊説の旅に出るのです」

Q:孔子の周りのご家族やお弟子さんたちのエピソードも知りたいので、ドラマ版も見てみたいと思ったのですが、ドラマ版はいかがですか?

 監督「以前に、2人の方がドラマを撮られたのですが、審査で通りませんでした。結局、放映されませんでした。多分、脚色があまりに多く、史実を離れたところがあるので通らなかったのでしょう。私もぜひ、ドラマにしてみたいとは思っています」

 孔子という題材ゆえに、いろいろなことを言う人がいて、ドラマ化は大変難しそうですが、映画の審査基準が緩くなってきたように、ドラマの審査基準も徐々に変わって来ることを期待して、ぜひいつか実現させて欲しいものです。

●男性監督より女性監督の方が気楽

Q:中国の第5世代を代表する女性監督でいらっしゃいますが、監督として女性であることで大変だったこと、逆によかったことはありますか?

 監督「むしろ女性なので、どちらかというとやりやすかったですね。男の監督たちは大変です。女優たちの誘惑がいっぱいで、これを避けるにはどうすればいいかと監督たちは四苦八苦しています(笑)。私のような女性監督には、それがないのでラクです。1本の映画を撮るのに、男性の監督はあちらの女優さん、こちらの女優さんと面倒をみるのが大変なんです。あちらの女優によくすると、こちらの女優から腹を立てられるということがあり、それに大変気を遣います。あの女優はセリフが多くて、自分は少ないと怒られたり泣かれたりするんですよ。

 その点、私はラクです。たとえばある男優がいて、彼のシーンをカットしたとしても、『ここはもうカットするから』とそれだけ言えば、彼は女優たちのように泣きつくことなく諦めてくれます(笑)。涙を飲んで我慢してくれます。

フー・メイ監督と孔子像2

チョウ・ユンファ似の孔子像は近寄るとこんなに大きい!

 周りのスタッフはほとんど男性です。彼らは、監督が一番疲れて大変だというのがわかりきっている。でも、私は絶対休みません。休まないでやり続けているので、自分たちも休めない。それで一生懸命、自分の力を精一杯発揮して頑張ってくれます。それに対していい評価を与えると、喜んでさらに頑張ってくれる。そういう所で、私は仕事ができています。

 最近も1本ドラマを撮り終えましたが、主演男優があまりに疲れきってしまい、疲れて泣くほどの悲惨な状態になっていました。それで、20キロほど離れた診療所に点滴を打ちに行かなければならず、毎日それに付いて行きました。点滴を打ち終わるには30分ほどかかるのですが、その間、彼は病室に横たわって寝て、私はその横で脚本などを読んでいました。

 彼が『監督はどうして休まないんですか?』と言うので、『あなたは男で私は女だから、同じ病室で一緒に寝るわけにはいかないじゃない。それに、2人とも寝ちゃって、万が一、点滴の針がずれたら大変でしょ?』と言いました(笑)。私はずっと彼に付添って看病をしたわけですが、彼はそれに感動してすごく頑張ってくれ、いい作品になりました。

 そういうことは、男の監督にはなかなかできないですね。そこまで気を配ってやるのは。俳優と監督との距離感、どれだけ気を配ってあげるかというのは、私はできるけど、なかなか難しいことだと思います」

 ここでぎりぎりのタイムアップ。持ち時間30分のうち、撮影に5分のはずが残りがなくなり、室内で撮影してくださいと言われたのですが、取材の前、監督に孔子像と撮りたいと話していたのが功を奏し、「急いで行きましょう!」と監督自ら部屋の外へ走り出したのでした。撮影もスムーズに進むよう、様々なポーズ、アングルをパッパッと決めてくださいました。さすが、監督! 教育者のような厳格さと凛とした強さの中に、とってもユーモラスでお茶目な部分も合わせ持つフー・メイ監督。そのきめ細かな演出は『孔子の教え』の中で、十分に堪能することができます。人間孔子の姿を、チョウ・ユンファ渾身の演技と共に、大スクリーンで味わってください。

(2011年7月29日 湯島聖堂・斯文会館にて)


前頁を読む 1 < 2 ▼作品紹介

●back numbers
フー・メイ監督おすすめDVD

愛にかける橋

愛にかける橋:DVD
(マクザム)

漢武大帝

漢武大帝:DVD-BOX12
前漢の最盛期を築き上げた
7代皇帝・劉徹の生涯を描く
一大歴史ロマン
全58話(マクザム)


湯島聖堂とは?
公益財団法人斯文会が管理する湯島聖堂は、元禄3年に5代将軍徳川綱吉が儒学を広めるために創建。聖堂が建てられ、孔子を奉る孔子廟と神農廟が上野から移された。100年後には、幕府直轄の学校として昌平坂学問所も開設され、明治4年に文部省が設置されるまで学問の中心的役割を果たした。大正11年に国の史跡となるが、関東大震災で消失。現存しているのは1993年に復元されたものである。

孔子銅像は、1975年に中華民国台北市ライオンズ・クラブから寄贈されたもの。身長は約4.5メートルあり、現存する孔子銅像としては世界最大。

*公式サイト