孔子の実像を初めて映画化
−フー・メイ(胡[王攵])
いよいよ11月12日より日本公開となる『孔子の教え』。10月公開予定が少し延びてしまったため、インタビューをお届けするのがすっかり遅くなってしまいましたが、お待たせいたしました。取材場所となったのは、以前につぶやきでもご紹介したように、孔子縁の地、湯島聖堂の斯文会館。お線香の香りが漂うレトロな建物の一室で行われました。
フー・メイ(胡[王攵])監督は中国第5世代を代表する女性監督。近年では「漢武大帝」などの歴史ドラマを多数製作しておられます。実はこの『孔子の教え』も、最初はTVドラマとして5年前に考案されたもの。2年がかりで脚本を仕上げ、60回シリーズの長編ドラマになるはずだったのが、題材ゆえに叶わず、さらに3年をかけて映画版のシナリオが完成したのでした。
今回は単独インタビュー。題材となる孔子や儒教については、各メディアからたくさん質問されておられると思ったので、アジクロでは映画作りという側面から、様々な質問を試みました。
●水にまつわる描写について
Q:大変美しく、完成度の高い作品で感動しました。タイトルバックの水盤や硯の水。食事のシーン。南子との対決シーン。それに、顔回が水中に潜るシーンなど、水を使った演出がとても印象的なのですが、特に思い入れがあるのでしょうか?
フー・メイ監督「ディテールにとても目を留めていただき感謝します。あの水盤は、孔子が教えを施す時に使った特別なものです。水がわあっと満ちると、さーっと下に落ちますよね。あれは学舎の門の真ん中に置いてあります。どういう意味があるかというと、弟子たちに、学問をする時はけっして満足をしてはいけない、いっぱいになったと思って満足してしまうと、それは溢れてしまう。永遠に満足せず学問を深めなさい、追求しなさい、という諌めの意味なのです。
南子との会見で出て来た容器は、実際に出土した本物があります。映画では模造品を使いましたが、あのような出土品があったのです。あれは時計で、1滴ずつポトンポトンと落ちることで1秒1秒の時を計っています。水漏というのですが、砂漏というのもありますから、これは水時計。南子が現れるまで、孔子がずっと待っていますよね。その時に水が時を計るのと同じように、孔子の心が1滴1滴…ドキドキと波打っているのです」
あのシーンはとても緊張感がありました。
監督「南子が孔子に、ここに残り自分の師になって教えて欲しいと迫る場面がありますが、その時、観客は孔子がどう答えるかを期待して、とても緊張感を持って観ますよね。あの間の沈黙が、ポトンポトンという水時計によって表されます。それが意味するのは孔子の心であり、ここに残りたいという気持ちがあるが、それはできないということなのです」
Q:孔子でも誘惑に負けそうになっているということでしょうか?
監督「あのシーンはなるべく引っ張って、観客の興味をぐっと惹くようにしました(笑)」
孔子の人間的な部分が出ている感じがします。
監督「最後の、顔回が書物(木簡)を拾うために水に潜っていくシーンですが、浮き上がっていこうとする時に水がわあっときて、光が上から注いできますよね。それは、人間が尊い知恵の集っている書物を守るために行っていること、つまり知に向かって進んでいるとそこには光明があるという意味です。この画面設計はいろいろと知恵を絞ってデザインしました」
Q:特撮ですか?
監督「特撮もありますが、実際に潜ってもらって撮りました。お気づきになったと思いますが、孔子の奥さんが孔子に『水に滲まない墨をすった』という所があります。これは、後のシーンを考えて入れました。たとえ木簡が氷の湖の中に落ちたとしても、その文字は消えないということを伝えているのです。小刀で文字を掘るのは、文字を消すために使う方法です。ここでは墨で文字を書いています」
Q:昔の木簡はほんとうに消えない墨で書いてあったのですか?
監督「…どうでしょう(笑)。水に滲まないかどうかはわかりませんが、最初は私も、昔の木簡の文字というのは全部掘ってあると思っていました。ところが、TVドラマ「漢武大帝」(04)を撮った時にいろいろ勉強した結果、昔の人が小刀を使うのは文字を消す時だけで、すべて墨で書いていたというのがわかりました。今までに出土した木簡や竹簡は、すべて墨で書かれていたということがわかっています」
●カリスマ俳優チョウ・ユンファ
主演は、最初からこの人しかいないと監督が決めていた、香港の名優チョウ・ユンファ。実際の孔子は背が高く、文武両道の様々な才能に秀で、多くの人を惹き付ける明るい人であったとか。そのイメージはまさに、カリスマ性溢れるチョウ・ユンファにぴったりなのでした。
Q:チョウ・ユンファさんの声ですが、中国大陸の映画に出演する場合、声優さんに吹替えられることが多いのですが、今回はどうだったのでしょう?
監督「彼ら(香港の俳優たち)はやはり北京語があまり流暢ではないので、なかなか難しいですね。シナリオのセリフが決まったら、専門の声優さんに全部入れてもらい、それをチョウ・ユンファさんは毎日毎日一生懸命聴いて練習し、吹き込みました」
Q:では、ご自分の声ですか?
監督「そうです。ポストプロダクションの時に40分くらいのセリフをカットすることになり、その調整で一部は声優があてています。修正した部分の前後は、いつもチョウ・ユンファさんのアテレコをしている専門の声優が若干入れ直しました」
撮影時期があの『レッドクリフ』と重なり苦渋の選択をしたチョウ・ユンファですが、今年8月末に発表された中国華表奨では、本作で境外(大陸外)優秀男優賞を受賞。その努力を実らせています。(次頁へ)
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