●スタンリーとヴァルマー先生の意外な関係
Q:スタンリーは皆から食べ物を分けてもらいますが、ヴァルマー先生はお弁当を盗んだりつまみ食いしたりしています。この対比には、何か意味があるのでしょうか?
監督「そうです。この情けない教師で、ちょっと詩的な表現をしてみました。というのも、ヴァルマーはスタンリーでもあるからです。彼にも面倒を看てくれる人がいないし、お弁当箱も持っていませんよね。むさ苦しくて、誰も見向きもしない。情けない男です」
でも大人ですよね?
監督「そうですが、救いようがないのです。スタンリーは子どもなので、こっちの道に行くかもしれないし、ヴァルマーのようになるかもしれない。今、スタンリーはポジティブな方向に向かっていますが、社会がきちんと面倒をみていかないと、彼もシニカルなヴァルマーになるかもしれません。これは、社会への警告なのです」
そうだったのか!と思いがけない説明に深く納得したところで、そろそろ、退屈してきたパルソーくんへ質問です。
お父さんの影響をたっぷり受けて育ったパルソーくん。大人顔負けの立派な発言に一同びっくり!
●パルソーくんの将来と尊敬するお父さんのこと
Q:演じることが好きみたいだけど、将来は俳優?それとも監督?
監督「両方やりたい。俳優も監督もなりたい夢の1つだし、なろうと決めてるけど、僕はまだ子どもだから、大きくなったら気が変わるかもしれない。音楽をやってるかもしれないし、動物学を勉強しているかもしれない。その決断は、僕が大きくなった時の僕と両親次第かな」
M:歌うのは好き? 映画の中で映画『Kaminey』の歌を歌ってたよね。
パルソー「(ちょっと思い出して)アー、映画の中で歌ってるね。僕はギターを弾くのが好きなんだ。何をしたいか先のことはわからないけど、何をやってもうまくできるようになれるといいな」
Q:お父さんはどういう大人になって欲しいと思いますか?
監督「親としては、できるだけ知識を共有したいと思っています。また、インドの現状に対して敏感なままでいて欲しいですね。結局は、自分がなりたいと思う大人になっていくでしょうが、責任感のある市民になって欲しいし、貧困やインドを取り巻く状況には敏感でいて欲しい。そして、それに対して何か行動できる人間になって欲しいですね」
Q:パルソーくんはそんなお父さんを見て、どう思う?
パルソー「素晴らしいお父さんだよ。いつも、僕に時間を作ってくれる。僕の通ってる学校の多くのお父さんたちは、仕事ばかりしてるんだ。子どもと過ごす時間を作らないし、奥さんと過ごす時間も作らない。いつも仕事ばっかり。映画監督は楽な仕事じゃないよ。いつも、もの凄く忙しい。ほんとに忙しいんだ。それなのに、僕のために時間を作ってくれて、あちこち連れて行ってくれる。ワークショップやイベントや市場にも連れて行ってくれる。一緒に泳いだり、食べたり…お父さんと一緒にいるとすごく楽しいんだ。
今は次の映画を撮っていて、僕が出演してお父さんが撮ってるから、二人ともずっと一緒にいられる。正確には、あまり好ましい方法じゃないけどね。たいていは、二人きりだけど、いつもプレッシャーがあるし、映画に集中して過ごしているから。子どもに対していいお父さんであることは素晴らしいけど、仕事にも時間を割かないといけないよね。仕事は家族を養うためのものでもあるから。
一番いい方法は、自分が楽しめる仕事をすること。お父さんは仕事を愛しているし、純粋に仕事を楽しんでる。中にはいいことをしても、心がこもってない人たちがいるんだ。世間の評判になるためにやってるだけ。でも、お父さんはそういう人じゃない。純粋にやってる。でも、完璧な人間なんていないし、時には特殊な撮影環境もあるし、お父さんはすごいプレッシャーの中にいて、疲れているみたい。ちょっと、いらいらしてる。僕たちのせいじゃないと思うけど、家族の一人がいらいらしてるのを見るのは、あまりいいもんじゃないよね」
この長い弁説に、一同、目が丸くなりました。「すごく、しっかりしてますね」と言うと、お父さんは笑いながら「そうです。浮ついてないんです」とのこと。「よく育てましたねえ」と通訳の松下さんも感心しきり。
●パルソーくんが語る映画のこと
Q:今だったらどんな映画を撮ってみたい?
パルソー「僕が監督で興味があるのは、他人を楽しませる映画じゃなくて、自分をハッピーにする映画を撮ること。僕がハッピーだと、いい映画になると思うし、社会の問題を解決することにも役立つと思う。毎日の努力が必要だけど、その価値はある。撮影している間は、いつも笑顔が浮かぶようにしたいな。スタッフや俳優たちと仲良くなれば、大きな1つのファミリーになれるしね。おかしいことばかり言って笑ったりして、すごく楽しいし、疲れることもあるけど、やる価値はあると思う。それにかかりっきりになってしまうけど、他の人はともかく、僕が99歳か100歳になった時にいたい場所は、カメラの前なんだ」
またしても、想定外の答えに目が丸くなりました。「何を撮りたいではなくて、どういう風に撮りたいという哲学なのね」と言うと、照れくさそうに「うん。パパから学んだんだ」と、お父さんの影響が大きそうです。そこで、松岡さんが具体的な質問をしてくださいました。
M:実際にはどんなインド映画が好きなの?
パルソー「納得できる映画が好き。意味不明な映画もあるんだよ。ストーリーがあっても、わかりきったミエミエのへんてこな話だったりする。別にファンタジーがわるいと言ってるんじゃないよ。もし、ファンタジー映画を作るんだったら、ちゃんと作って欲しいんだ。リアルな映画だと、マジッド・マジディ監督の『太陽は、僕の瞳』(イラン/99)は美しい映画だった。盲目の少年のお話なんだけど、父親が彼を持て余して、盲目の大工のところに置いてきちゃうんだ。その少年と父親の演技や、映画全体の撮影のし方が、当時では信じられないくらいなんだ。そういう映画をボリウッド映画のいくつかの作品と比べると、ちょっとね。ボリウッド映画が好きな人もいるし、ボリウッド映画がわるいと言ってるんじゃないけど、僕はあまり好きじゃない。
こんなことを言うと、コメディが嫌いなんだと思うかもしれないけど、『ピンク・パンサー』は観たよ。昔の『ピンク・パンサー』。スティーブ・マーティンやピーター・セラーズのは両方とも観たし、あれはホンモノのコメディだね。でも、今のインド映画のいくつかは、ほんとうに恥ずかしいよ」
と、またしても持論を披露。さすがのお父様も苦笑いをしていました。(次頁へ続く)
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