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asicro interview 50

更新日:2013.7.10

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初来日のアモール・グプテ監督と息子のパルソーくん
親子で創った
子どものための魔法の映画
−パルソー(主演)
 アモール・グプテ(監督)

 6月29日より絶賛公開中の『スタンリーのお弁当箱』。『きっと、うまくいく』の大ヒットでインド映画に注目が集まっていることもあり、本作をご覧なった方の中にはちょっと戸惑った方もいるようですが、こちらは子どもが主人公の作品。『きっと、うまくいく』とは、また違った感動や感慨に包まれた方も多いようです。でも、主人公が状況に負けず前向きに生きていること、これは共通ですよね。

 この『スタンリーのお弁当箱』の監督で、食いしん坊の意地悪なヴァルマー先生を演じたアモール・グプテ監督と、監督の実の息子で、主人公のスタンリーを演じたパルソーくんが、公開直前に来日しました。アジクロでは単独インタビューをすることができましたので、スタンリーそのものの利発なパルソーくんの様子や、監督による撮影裏話など、たっぷりとご紹介します。

 さらに今回は心強いことに、「どうしてもスタンリーくんに会いたい!」という松岡環さんが特別に同席してくださったので、より深くお話を聞くことができました。取材の様子は、松岡さんのブログ「アジア映画巡礼」にも掲載されていますので、そちらも合わせてご覧ください。尚、インタビューは英語。通訳は東京国際映画祭やイベント司会、シンガポール映画祭でお馴染みの、松下由美さんです。

Q:アジクロ、M:松岡さん

●初めての日本に感激

Q:お二人とも日本は初めてとのことですが、感想はいかがですか?

 パルソー「すごくよくしてもらってるよ。日本は美しい所だし、皆いい人たちだし、安全だし、古い文化と新しいものが完璧に調和してるし…、水道水が飲める! これはインドでは無理。インドで水道の水を飲むと、お腹がいたくなる。それから、銀座はオフィスがたくさんある地区だけど、美しい公園や木があって、黒い鳥(カラス)がたくさんいる。ツバメもたくさんいる。インドではツバメが絶滅してるんだ。でも、日本ではツバメが見られるし、鳥が大好きだからうれしいよ」

 監督「もう30年間も、日本へ来るのを楽しみにしていました。小津の東京、黒澤の東京、溝口の東京、大島の東京と、日本の映画を通して、日本に住んでいるような気分になっていたので、実際にここへ来られて素晴らしい気分です」

Q:監督は日本の映画がお好きなのですか?

 監督「好きなんてものじゃありません。日本の巨匠たちの映画は私の教科書ですから」

M:そういう映画は国立映画・テレビ研究所(Film & TV Institute of India)でご覧になったのですか?

 監督「そうです」

Q:もう3日目で、いろいろとおいしいもの食べたと思いますが、気に入ったものは?

 監督「最初の夜に、串揚げ屋に行ったのですが(パルソー「串アゲ!」)、素晴らしかったです。一昨日は、月島でもんじゃ焼きを食べましたが、これも素晴らしかった。30年間ずっと、三船敏郎やいろんな俳優の皆さんがお酒を飲んでいるのを映画で観てきました。私も飲まずにはいられません。ほんとうに夢がかないました」

 パルソー「僕はラーメンがおいしかった。それから、焼鳥。串揚げも」

  お二人とも食べることが好きなんですね。

 パルソー「うん!」
 監督「大好きですね」

●『スタンリーのお弁当箱』はこうして撮影された

Q:では、映画のお話をお聞きします。まず、映画のタイトルに出て来るアニメーションがかわいらしいのですが、監督は以前に絵を描いておられたこともあるそうですね。あの絵は監督が描いたのですか?

 監督「最初の自転車の絵ですね。あれは息子なんです。ボンベイではフィルムの入ったリール缶を劇場から劇場へと自転車で運びます。1つはあそこに、これはあっちにと…そうすると、2つの映画が同時に上映できる。自転車で運ぶからできるんですね。あの映画のために、息子と一緒にフィルムを届けている絵を描きました。あの絵は『スタンリーのお弁当箱』を届けているのです」

Q:絵を描いたのはアニメーターの方ですか?

 監督「原画を16枚ほど描きました。それを順番に重ねて動くようにして、アニメーション・スタジオに持ち込み、アニメーターがアニメーションにしてくれました」

 実はこの質問は、タイトルで大人と子どもがお弁当を取り合っているアニメについての質問だったのですが、その前に出て来る映画のシンボル的アニメにも、このようなストーリーがあったのですね。そうか。あれは、パルソーくんだったのか。

Q:この質問はたくさんされたと思いますが、この映画がワークショップで撮りためた映像でできあがったというのが不思議です。お話は全部つながっていますが、具体的にはどういう風にそれぞれのシーンを撮影していったのですか?

 監督「ストーリーは私の中にすでにありました。ただ、脚本は持ち込みませんでした。その代わりに…(と、ここで、退屈して飲み終えたグラスの氷をカラカラさせているパルソーくんに、「うるさいよ。静かにしなさい」とお小言)オーケストラで指揮をするのと同じです。指揮棒を使いますよね。透明の指揮棒を使って、毎週土曜日、4時間のプログラムで、間に休憩が2回。子どもたちは自発的にやって来ます。これは学校のワークショップで、クラブ活動のようなものなので、映画を撮るというプレッシャーがないのです。

 ストーリーはわかっているけれど、脚本にはしないで、今日はこのストーリー、今日はこれと、現場へ行って、その日のシーンを口頭で伝え、先生役の役者には『今日は英語を教えます、これが教科書です』と渡します。それから『あの男の子は顔にアザがあるので、どうしたの?と授業中に尋ねてください』と頼みます。男の子には、先生が質問するから答えるように言いますが、質問の中味は伝えません。質問に答えなさいとだけ言います。(次頁へ続く)


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profile
アモール・グプテ
Amole Gupte


1962年、ムンバイ生まれ。監督、脚本家、俳優などマルチな活躍を見せる才人。児童映画や劇場の仕事に携わり、90年代には画家として展示会も開催するなど美術関係の仕事にも従事していた。

いくつかのテレビ・映画作品の脚本を書いた後『地上の星』(07年)の脚本でメジャーデビューし、映画は1600万ドルを超える大ヒット。国内の数々の賞も受賞。クレジットではアーミル・カーンが監督兼主演とされているが、実質的な監督はグプテだったと言われている。

『スタンリーのお弁当箱』(11年)が監督デビュー作。劇中で嫌味な国語教師ヴァルマーも演じている。現在は2作目となる『Counting Dreams』を、再び息子パルソー主演で撮影中。
filmography
movie
・Jo Jeeta Wohi Sikandar(92)
 *出演
・地上の星(07)
 *脚本
・Kaminey(09)
 *出演
・Phas Gaye Re Obama(10)
 *出演
・Urumi(11)
 *出演
スタンリーのお弁当箱(11)
 *監督・脚本・出演
・Bheja Fry 2(11)
 *出演
・Counting Dreams(13)
 *撮影中
関連リンク
インド子ども映画協会