初めの日本映画撮影は
珈琲の香りに包まれて
−チアン・ショウチョン(姜秀瓊)
2月28日より公開された日本映画『さいはてにて〜やさしい香りと待ちながら〜』。30年ぶりに故郷の奥能登を訪れ、自家焙煎珈琲の店「ヨダカ珈琲」を営みながら、行方不明になっている父を待つ岬(永作 博美)と、その近くの民宿で暮らす若いシングルマザーの絵里子(佐々木 希)が出会い、ぶつかりあいながらも絆を築き、新たな自分として再生していく物語です。
日本のオリジナルストーリーによる本作の監督を任されたのは、なんと台湾の女性監督チアン・ショウチョンでした。女性らしい丁寧で細やかな演出、台湾の巨匠ホウ・シャオシェン監督やエドワード・ヤン監督のもとで学んだ作風が活きており、奥能登のさいはての地で出会った登場人物たちの交流を優しくじっくりと見つめています。
そして、この映画のもう1つの重要な主人公は珈琲。ふくよかな香りと深い味わいで、そっと心を慰めてくれる癒しの一杯が実感できる作品でもあります。アジクロでは、初めての海外作品に挑戦し、撮影中もこの珈琲の香りで慰められたという台湾のチアン・ショウチョン監督にインタビュー。本作に参加することになったきっかけや、海外撮影での苦労話などをお聞きしました。
●女優から監督へ
小柄で華奢なチアン・ショウチョン監督。実は監督になる前に、あのエドワード・ヤン監督の代表作『[牛古]嶺街 (クーリンチェ) 少年殺人事件』で女優デビューを果たしています。
Q:最初は女優さんとしてデビューされましたが、その頃から監督になりたかったのですか?
監督「実は大学での専攻は映画ではなく、劇場でした。舞台パフォーマンスや演出です。ひょんなことから、エドワード・ヤン監督の『[牛古]嶺街少年殺人事件』に出演するチャンスに恵まれ、それがきっかけで映画に興味を持ちました」
Q:今回は日本映画ですが、オファーを受けたきっかけを教えてください。
監督「もともと日本の制作現場や制作環境に興味がありました。たまたま、プロデューサーからオファーを受けたのが、ちょうど東日本大震災の日(2011年3月11日)で運命的なものを感じたのです。人々の慰めになるような作品が作れたらと思い、その時に決意しました」
本作の大久保 忠幸プロデューサーとの出会いは、2009年の台北金馬映画祭。その時に観た『風に吹かれて−キャメラマン李屏賓の肖像』(10年の東京国際映画祭でも上映)の感動と監督の名前を覚えていたプロデューサーが、完成した脚本を映像化するにふさわしいと選んだのがチアン監督でした。
●海外で撮影するということ
Q:日本語の脚本による日本語の物語の撮影です。コミュニケーションに不安はありませんでしたか?
監督「もちろん、不安がなかったと言えば嘘になりますが、いざやってみると、気持ちがあれば言葉は関係なく通じ合うものなんだなということがわかりました。実際に撮影を始めると、言葉の不安はそんなに大きな要素ではなくなりました。むしろ、この仕事を受けたスタッフの方がすごいと思います。外国人の監督と仕事をするには心の準備が要りますよね。その上でオファーを受け入れたわけですから。お互いに向かう所は同じなので、言葉だけに頼らず気持ちが通じるところがあって、うまくいったのだと思います」
(c)2015「さいはてにて」製作委員会
Q:撮影中、具体的な指示を出す時は、通訳さんがおられたのですか?
監督「難しいニュアンスのものや、技術面での指示は、やはり通訳に頼ることが多かったのですが、撮影の中盤から後半にかけては、もう皆さんと気持ちが通じ合っていたので、簡単な英語やジェスチャーで。目が合っただけでも、通じ合うことが多かったです。もちろん、たとえ言葉が通じ合っても、通じないこともありますよね。大事なのは、皆がいい作品を作りたいという気持ちを持っていること。皆、いい作品を作りたいという気持ちが強かったので、最初は多少の食い違いがあっても、ディスカッションを重ねるたびに修正されていきました。言葉の面で大変だったということはなかったです」
●自分なりのこだわり
Q:脚本は日本のオリジナルですが、日本と台湾でのリアクションの違いというか、自分なりにこだわって演出されたところはありますか?
監督「実は脚本のディスカッションには、一番時間がかかりました。正直なところ、理解できなかった部分もたくさんあったので、脚本家の方と何度も打合せをしました。『これは日本ではこうなんですよ』『ああ、そうなんですか』という風に理解していき、『やっぱり、ここはちょっとこうして欲しい』とか、『わかりました、ではこのままにしましょう』ということもありました」
Q:監督の意見を取り入れて、多少変わった部分もあるということですね?
監督「そうですね。もちろん、大きな骨格は変わっていません。最初に脚本家が設定した通りのものですが、ここは残して、ここはやめようとか、細かいディテールのちょっとした修正はありました」
Q:カメラアングルなど、ホウ・シャオシェン監督の作品を彷佛とさせるものがありました。やはり、影響を受けておられるのでしょうか?
監督「そうでしょうね(笑)」
●キャスティングについて
Q:今回の配役は決まっていたのですか?
監督「私が決めました。もちろん、日本のすべての役者さんを熟知しているわけではありませんが、作品は何本も観ていますし、知っている方もいます。今回のキャスティングについては、プロデューサーから提示された資料で、その人がどういう役柄を演じてきたかを見て、役柄に合う人たちの順番を付けて行きました。それをプロデューサーと一緒に見て、決めていきました。子役に関しては、オーディションでたくさんの人に来ていただき、私もその場にいて決めました」(次頁へ続く)
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