Q:今回、一緒にお仕事をされて印象に残っている方はいますか?
監督「とてもたくさんいますね」
Q:永瀬正敏さんの役柄にはびっくりしたのですが、本人はご存じだったのですか?
監督「もちろんです。脚本を見ていましたから。たしかに意外といえば、永瀬さんなんですが。実は、最後の最後に出演が決まったんです」
Q:今回は友情出演なんですか?
監督「そうですね」
Q:やはり台湾の監督さんだから出たいということだったのでしょうか?
監督「本人に聞いたわけではないので、どういう風に思っておられるのかはわかりませんが、台湾に対しては特別な思いを抱いておられるようですね。過去に台湾の映画にも出演されているので、今回、台湾の監督が撮るということで興味を持たれたようです」
永瀬さんが主演した台湾映画『KANO〜1931海の向こうの甲子園〜』の上映期間とも重なるので、少し突っ込んで尋ねてみました。永瀬さんが最初に台湾映画に出演したのは、1991年のアジアン・ビートシリーズ台湾編『シャドー・オブ・ノクターン』(ユー・ウェイエン監督)でした。そして、この『さいはてにて』の前に撮影されたのが『KANO〜1931海の向こうの甲子園〜』になります。今回はたまたま右目を怪我して、あえて眼帯を付けたままで撮影に臨んだとか。「この男は善を潰し、悪だけで見ている」という役柄に驚くかもしれませんが、岬と絵里子の関係が変化するきっかけとなる重要な役柄です。その他にも、本作には脇役に村上淳、浅田美代子、イッセー尾形、中村メイコなど、個性的な実力派キャストが揃っています。
Q:自分で特に気に入っているシーンはありますか?
監督「たくさんあります(笑)。あえて言うなら、オープニングのシーンかな。イッセー尾形さんが永作博美さんと話している場面。日本を代表する素晴らしい俳優のおふたりに出ていただいて、感無量でした。おふたりの素晴らしい演技で、映画の方向が決まりました。それから、個人的な思い出ですが、15年前に『ヤンヤン』という作品でイッセーさんとご一緒したことがあり、ほんとうに思い入れがいっぱいあるシーンでした」
うっかり忘れていて、最初はどうしてそのシーン?と思ったのですが、そうでした! イッセー尾形さんといえば、エドワード・ヤン監督の遺作となった『ヤンヤン 夏の思い出』(2000年)にも出演。当時、チアン監督はスタッフとして現場を手伝っていたのでした。
右端にあるのが焙煎機 (c)2015「さいはてにて」製作委員会
●リー・ピンビンからのアドバイス
Q:2009年に監督が撮られたリー・ピンビンさんのドキュメンタリー(『風に吹かれて−キャメラマン李屏賓の肖像』)がとても好きで、あの強面のリー・ピンビンさんがとってもかわいらしい方だとわかりました。リー・ピンビンさんから受けた影響はありますか?
監督「もちろん、あったと思いますね。実はリー・ピンビンさんのドキュメンタリーといっても、半分はホウ・シャオシェン監督のドキュメンタリーでもあるんです。その映画を作るにあたっては、台湾映画界をもっと掘り下げ、精神的な面でいろいろと考えました。私自身、いろいろな影響は受けていると思います。
リー・ピンビンさんにいろいろとインタビューをした時、自分も今までいろんな外国人の監督と仕事をさせてもらったことがあるけど、その中で一番最初の作品は行定 勲監督の『春の雪』だった、と言っていました。その撮影の時にこんなことがあったとか、こういう時にコミュニケーションがうまくいかなかったとか、その時はこういう風に対応した、という話を事前に聞いていたので、この仕事で参考にさせていただきました」
Q:その行定監督は、先日、中国で映画(『真夜中の五分前』)を撮りました。今、外国で他の国の監督さんが撮影するということが増えているのでしょうか?
監督「すごく増えていると思うし、その傾向はこれからも増えるでしょう。自分も1回経験したわけですが、やはり本国にはない敏感さがあると思います。本国の人にとってはあたりまえの存在でも、外国の人から見るとそこが面白いとか、違う解釈の仕方や見方、描き方などいろいろあると思うので、そこがむしろ新鮮なんじゃないかな」
●慰められた珈琲の香り
Q:撮影中、珈琲はたくさん飲まれましたか?
監督「よくぞ聞いてくれました。実は一番幸せだったのは、永作さんがよく珈琲を淹れてくれて、飲ませていただいたことなんです。彼女はとても役者魂がすごくて、暇さえあればよく焙煎機のところに行って、ずっと豆を焙煎しては珈琲を煎れてくださってたんですよ。できたら『皆さん、いかがですか?』と、珈琲を自ら持って来てくださっていたんです」
Q:ロケ中は凄くいい香りが漂っていたのでは?
監督「ロケ中は大変なこともありましたが、珈琲の香りがとても慰めになりました」
Q:これから撮りたいテーマはありますか?
監督「人生や家族をテーマにした長編映画を撮りたいですね」
Q:具体的に台湾で動いている作品はありますか?
監督「今は脚本を煮詰めている段階です」
Q:また、日本映画も撮ってみたいですか?
監督「もちろん。こんなに素晴らしいスタッフや俳優さんがいる環境で、いい脚本があれば、ぜひ撮りたいです」
最後は珈琲の話で盛り上がり、インタビューが終了しました。取材中は声も小さく、優しくておとなしい方という印象を受けたのですが、きっと撮影現場ではテキパキとしておられるのではないでしょうか。そんなチアン・ショウチョン監督が初めて挑んだ日本映画『さいはてにて〜やさしい香りと待ちながら〜』は2月28日より全国ロードショー。珈琲好きな方には興味深いシーンもたくさんあり。映画を観た後は、きっと珈琲が飲みたくなりますよ。
(2015年1月29日 パークハイアット東京にて単独取材)
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