logo


asicro interview 68

更新日:2015.7.24

p1

学園サスペンスに挑戦したチャン・ロンジー監督
推理サスペンスとして
撮ることに興味を惹かれた
−チャン・ロンジー(張榮吉)

 チャン・ロンジー(張榮吉)監督が昨年の東京国際映画祭でも上映された新作『共犯』のプロモーションで、6月初旬に来日しました。長編デビュー作『光にふれる』(12)で大きな注目を浴びたチャン・ロンジー監督。前作は盲目の若き天才ピアニスト、ホアン・ユィシアンの実話に基づくセミドキュメンタリーで、本人が自分を演じたことでも話題となりましたが、長編2作目となる『共犯』は趣をがらりと変え、3人の高校生を主人公にした学園ミステリーが描かれています。

 同じ学校の女子高生の自殺現場に偶然居合わせた3人の少年たち。性格も境遇も異なる彼らが、事件をきっかけに繋がり、犯人探しをしながら友情のような関係を築いていくものの、残酷な運命が彼らを待ち受けています。その背景にあるものとは? アジクロではチャン・ロンジー監督に単独インタビューを行い、監督自身や作品について、新人俳優たちについて、様々なお話を伺いました。

●映画は多くを語ることができる

Q:まず、監督が映画監督を目指したきっかけや出来事があれば教えてください。

 監督「映画に近づくきっかけとなったのは大学に入ってからですね。高校では絵や写真が専攻で、大学に入ってからテレビや映画の専攻になりました。大学1年の頃、ある作品を撮って画面に音楽などを付け編集作業をしていた時、写真のような平面作品で語るよりも、映画はもっとたくさんの情報を語ることができるということが初めてわかりました。それが大きな動機です。それから、映像の方に進みたいと思うようになりましたが、その頃は必ずしも映画監督でなければ、とは思っていませんでした」

Q:映像で伝えたいテーマやメッセージを持っていらしたのですか?

 監督「映像で自己表現をしたいと思い始めたのは、初めてのドキュメンタリーを撮ってからです。その時、映像の持つ力に初めて気づきました。撮ったのは、波止場で荷役の仕事をしている労働者のお話。もう引退したお年寄りたちなんですが、その人たちにカメラを向けた時、彼らは僕のことをテレビのニュースレポーターかカメラマンだと思っていました。あまりいい待遇を受けていなかったその人たちは、『ちゃんと撮って、自分たちのことをきちんと伝えて欲しい』と僕に言いました。その時、カメラを持って映像の仕事をすることの責任感と使命感を感じ、映像で伝える力を確信したのです」

Q:ドキュメンタリーでずっと評価されてきましたが、今回は初めての完全劇映画です。(前作の『光にふれる』はセミドキュメンタリー)今後はこういった劇映画を撮っていくつもりですか?

 監督「どちらか一方だけということではなく、ドキュメンタリーとしていいテーマが見つかれば、これからも撮っていくつもりです。『光にふれる』を撮って初めてドキュメンタリーを離れ、劇映画をきちんと撮れるという感触がかなり強くありました。表現方法として、写実的なドキュメンタリーでは撮れない部分、そういうものをいろんな方法で物語にして語っていきたいです」

●『共犯』が描く世界

Q:『共犯』は青少年の問題を扱っていますが、このテーマ、この原作を映画にしようと思った理由は?

 監督「『共犯』の脚本を読んだのは、『光にふれる』が公開された直後の頃でした。『共犯』も若い世代をテーマにしていましたが、『光にふれる』とは若者をとらえる角度、切り口、映画としての語り口がまったく違うところにありました。もともと、僕は推理ものがとても好きなので、これを推理サスペンスとして撮ることにとても興味を惹かれたわけです」

s1

後列左よりウー・チエンホー(ホアン)、ヤオ・アイニン(シャー)、チェン・カイユアン(イエ)
前列左よりサニー・ホン(ホアンの妹)、ウェン・チェンリン(チュウ)、トン・ユィカイ(リン)


(c)2014 Double Edge Entertainment

Q:作品では若者のネット社会、SNSに書き込まれたものを安易に信じ込んでしまう問題があると思いますが、それと同時に日記の存在も事件の鍵を握っています。これは、あえて対照的な設定にしたのですか?

 監督「(ちょっと考え込んでから)ネット社会の中では、お互いにまったく顔も知らない人とやりとりをするわけで、バーチャルな世界にいます。だから、この3人の少年たちは、亡くなったシャー・ウェイチャオに対して、まるで彼女は実際に存在しない、バーチャルな人物のようにとらえているわけです。それとは逆に、彼女が残した日記は、当事者である彼女の真実の気持ちを語っているので、SNSと日記というのはまったく相反する世界と言えるでしょう。

 ホアン・リーファイは、皆が信じればそれが事実になると言っていますが、やはりこのネット社会においては、皆が情報を拡散することで信じてしまう、それが事実になってしまうということが往々にしてあります。それとは逆に、ホアン・リーファイは彼女が残した日記を隠します。日記を隠し、事実を隠して、別の事実らしきものを作り上げ、インターネットで拡散していきます。そして、それを人に信じさせる。彼は嘘を事実として信じさせていくという行為をするのです」

Q:大人たちは自分のことに必死で、子どもたちに深く介入してきません。これは無関心な者として、あえて主人公たちに関わらないように描かれているのでしょうか?

 監督「実際にこのような状態かどうかはわかりませんが、無関心な大人、そのような態度をとる大人は必ずいますよね。その部分を突出させ、大人はかなり強烈な印象で描いています」
(次頁へ続く)


続きを読む P1 > P2 ▼作品紹介

●back numbers
profile
チャン・ロンジー
張榮吉/Chang Rong Ji


1980年、台北生まれ。国立台湾芸術大学大学院応用媒体芸術研究所卒業。大学時代から映像制作に関わり、01年に『青春歳月』を初監督。06年に共同監督した初長編記録映画『ぼくのブットボールの夏』で金馬奨最優秀記録映画賞を受賞する。

08年には視覚障害を持つ天才ピアニストを描いた短編『天黒』で高い評価を受け、11年には五月天のライブ映画『MAYDAY 3DNA 五月天追夢』にもコンサート場面の撮影監督として参加している。

12年には『天黒』を長編化した『光にふれる』で、初の長編劇映画を監督。再び高い評価を受け、金馬奨で新人監督賞を受賞した。
filmography
*ドキュメンタリー

・青春歳月(01)
・感謝的容顔(04)
・顯影(04)
・台北城市行動(04)
・馬祖容顔(05)
・台北城市風景(05)
・心靈之歌(05)
・ぼくのフットボールの夏
 (06)
 *金馬奨最優秀記録映画賞
・長流(06)
・音樂路向前走(06)
・合同殺人(07)
・遺落的玻璃珠(08)
・天黒(08)
 *台北映画祭・金馬奨
  最優秀短編賞
・南風。六堆(13)

*長編劇映画作品

光にふれる(12)
 *金馬奨新人監督賞
・共犯(14)
・私家偵探(15)
 *準備中