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asicro interview 71

更新日:2016.5.23

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ゲスト来日したニティワット・タラトーン監督
脚本を書く時、
最後のセリフだけは決めていた
−ニティワット・タラトーン

 見知らぬ二人が日記を通じて恋に落ちるロマンチックムービー『すれ違いのダイアリーズ』が5月14日よりシネスイッチ銀座(他、全国順次)にて絶賛公開中です。米アカデミー賞のタイ代表作品にも選ばれた本作。日本では2014年の東京国際映画祭で初めて上映され、話題となっていました。さらに、昨年9月のしたまちコメディ映画祭2015でも上映。当時、ゲストとして来日したニティワット・タラトーン監督に単独インタビューを行いましたので、公開に合わせてご紹介します。

 実はトンさんことニティワット・タラトーン監督とお会いするのは2回目。前回は2005年4月、共同監督作品の『フェーンチャン/ぼくの恋人』で6人の監督たちとして来日されて以来です。6人の中でも一番穏やかで大人な印象だったトンさん。10年経っても風貌は当時と変わることなく、作品について熱く語ってくれました。

Q:監督とお会いするのは10年ぶりです。昨年も東京国際映画祭で来日され、あいにく監督がいらっしゃる日は行けませんでしたが、一番好きな作品でした。来年はいよいよ日本公開になりますが、今の心境はいかがですか?

 監督「とてもドキドキしています。これまでは東京国際映画祭、そして今回のしたまちコメディ映画祭と映画祭での上映でしたが、来年は映画館で上映されますので、たくさんのお客様に観に来て欲しいですね。そして、上映が長く続いてくれればと思います。海外の観客の皆さんからのフィードバックも楽しみです」

●2つの実話から誕生した物語

Q:実際にあったお話を元に作られたそうですが、少し詳しく教えていただけますか?

 監督「実際に水上学校で教えている先生がいて、その方からインスピレーションをもらいました。4、5人の生徒を教えているのですが、まさに自分の人生を捧げて取り組んでいました。それが、映画を作ることになったきっかけです」

Q:水上学校はほんとうにあるんですね?

 監督「その学校は北部のランプーン県にあります。ダム湖の中にあり、ランプーン県の大きな学校の分校となっています。学校というよりは、教室といった方がいいくらいの規模ですね。教えているのは、そのダム湖で生計をたてている漁師たちの子どもです」

Q:子どもたちは週1回学校へ通いますが、学校にいる間は先生と暮らしているのですか?

 監督「そうです。まず月曜日の朝、先生が5時くらいに車で家を出て、市場で1週間分の食糧を買い込み、9時頃に学校へ着きます。子どもたちは月曜の朝に両親が学校まで送ってきます。滞在している間は、先生がお父さんのようになってご飯を作り、家族のように生活しています。金曜日には家族が迎えに来て、帰って行くのです」

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(c)2014 GMM Thai Hub Co., Ltd.

 映画の中で起こる水上学校での様々なエピソードは、モデルとなっている先生の実体験が元になっているそうです。そして、もう1つの実話は日記にまつわるお話。本作のプロデューサーの友人の方が、新しい職場に移った時、自分の机に知らない女性の日記が残っていたとのこと。それを読んで感動したその方は、女性を探し出して連絡をとり、最終的には結婚されたそうです! そこで、水上学校の先生のお話にラブストーリーの要素が加わり、素敵な物語が誕生したのでした。

●子どもたちとソーン先生

Q:お子さんがとてもかわいくて生き生きしていました。特に一番幼い子と、年長の漁師さんの子どもが印象的です。オーディションで選んだのですか?

 監督「何百人もの子どもたちの中から3ヶ月くらいかけて選びました。まず、子どもたち自身の性格はどうかを見ます。この役に合わせてこういう演技をさせたいというよりも、自分が欲しいような役と本人の自然な性格が近い子どもを選ぶようにしています。特に一番小さい子ですが、実際にカメラで撮っていなくてもああいう性格をしているんです(笑)。ずっと私としゃべってるし、いろんなことを聞いてきました」

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前列の左が最年少の腕白坊や  (c)2014 GMM Thai Hub Co., Ltd.
 かわいいですよね。

 監督「すごくかわいいです(笑)」

Q:ソーン先生をやられたビーさんはとても人気のあるスターですが、映画はこれが初出演とのこと。この役は楽しんでいましたか?

 監督「とても興奮していましたね。そもそも、彼はいろんな能力のある人で、歌手もやれば、舞台にも出ているし、ドラマにも出ています。でも、映画だけはやったことがなかった。今回、誘ったらとても興奮していました。彼は今までにやったことがない新しいことをやるのがとても好きなんです。ただ、ビーさんが歌手として活動する時は、一般的にパワフルなイメージなんです。名前にスーパースターが付いているくらいなので。でも、私はビーさん本人の性格を出して欲しかった。実は彼は地方出身で、とてもナチュラルな人なんです。あまり飾らない人なので、どちらかというとそういう所を出して欲しいと思いました」

Q:最初は先生としてはちょっとダメですよね?

 監督「ソーン先生とビーさんには、似ているところが1つあります。ソーン先生は教えるのはぜんぜんうまくないけど、とても熱意がある。もともと体育教師として来たので、勉強を教えるのはうまくないんですね。ビーさんもスーパースターになる前は、歌も踊りも演技もうまい人じゃなかった。オーディションを受けるために、どんどんトレーニングを重ね、やる気と熱意で駆け上がっていったのです。そこに共通点がありますね」

●水上学校セットでの撮影と生活

Q:映画での学校はセットで、2つ作られたそうですが、それはソーン先生の撮影とエーン先生の撮影とを分けるためですか?

 監督「2つ作ったというよりは、1つ作ったものを一度壊して、また1つ作ったということなんです。まず最初に作ったのは、映画の時間軸と同じで、エーン先生のシーンから撮影しました。撮っている間にセットも少しずつ古くなっていくので、ソーン先生のシーンではその古さが出せました。そのソーン先生が教えている時に、嵐が襲うシーンがありますが、その時は皆で頑張って壊しました(笑)。実際に嵐に遭ったようにしたんです(笑)。その後で、もう一度作り直して、実際の映画の中の様子と合わせていきました。ここは、プロダクションデザイナーと相談してやりました」

Q:嵐のシーンは迫力があり凄かったです。

 監督「雨とか風のリアリティなど、ある程度はCGを使っていますが、実際に撮影していたのが雨季だったので、ほんとうに嵐に遭ったときもあったんです。そういった時に映像を撮っておいたので、それがとても役立ちました」(次頁へ続く)


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●back numbers
profile
ニティワット・タラトーン
Nithiwat Tharatorn


1974年7月21日生まれ。チュラロンコーン大学卒業。2003年、大学時代の映画仲間6人で共同監督した『フェーンチャン ぼくの恋人』で監督デビュー。この年のタイの興行収入第1位を記録しただけでなく、タイ映画界を帰るほどの成功をおさめ、日本をはじめ世界各国でも公開された。

2006年には『早春譜(Seasons Change)』を監督。同作はアジアフォーカス福岡映画祭で上映され、観客に愛された。2009年には『Dear Galileo』を発表。スパンナホン賞(タイ・アカデミー賞)にノミネートされるなど高く評価されている。
filmography
監督作品

フェーンチャン ぼくの恋人
 (03)
*コムグリット・ドゥリーウィモン、ウィッタヤー・トーンユーヨン、ソンヨット・スックマークアナン、アディソーン・ドゥリーシリカセーム、ウィッチャヤー・ゴージウと共同監督。
早春譜(06)
・Dear Galileo(09)
すれ違いのダイアリーズ(14)